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【帯広刑務所編】まさに塀の中の懲りない面々——カレーの代わりに正露丸《懲役合計21年2カ月》

凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.14


 元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました実刑2年2カ月!
 帯広刑務所生活では、看守たちも個性的。じんさん、人間の観察眼も深く鋭くなっていきました。本日は、そんな懲役たちの化かし合いの日常風景を綴ります。


■カレーの代わりに正露丸

さかはらじん
イラスト:さかはらじん

 

 この帯広刑務所のカレーは、具がない代わりに七味唐辛子が強烈に効いていて、辛さだけで食えていたようなところがあった。

 食事中、食べ物の不正授受がないように、担当看守がテーブルの周りを見回り、一人ひとりの手元に目をやりながら言う。

「いいか、プリンは一人一個だからな。間違って隣の奴や前の奴の物を喰らったりするなよ。中には一人で三つも四つも喰ってる奴がいるからな」

 すると、ドッと食堂の中に笑い声が起こった。そしてどこかで、「あ〜、今日のカレーは美味いべよ」と、わざとらしく誰かをからかうように素頓狂な声を上げた奴がいた。それに釣られて、周りで咳払いや笑いを押し殺す声が聞こえ始める。
 はは〜ん。今日はまた誰かが「罰ゲーム」で飯抜きになっているんだなと思い、レンゲでカレーを口に運びながら、首を伸ばして辺りを見渡した。

 すると、まったく食事に手をつけないで、腹が痛いという下手な芝居を打ちながら、美味そうに食べている奴らを恨めしそうに見ている奴がいた。道交法とシャブで札幌から来ている村井である。

 村井は、コンビニで買ったどこかの名水を使って、女と二人、車の中で腕に注射をしているところを、警ら中のミニパトカーに見つかり、逃走してパクられた懲役太郎だった。

「どうした? 村井、飯食わないのか。皆、美味そうに食ってるぞ」
巡回してきた担当が、片側の頬に笑いを貼りつけたまま、そいつの傍に来ると、顔を覗いて言った。

「腹の調子がよくないから、飯喰えないんです」
 村井は、飯を食えないのは腹が痛いせいだと言わんばかりに、いかにも腹の痛そうな演技をしながら、痩せた顔をひそめた。

 すると担当看守はすかさず、返す。
 「うん? お前、何だ、腹痛いのか? それで飯食ってないのか? かわいそうに……それじゃ、薬でも飲むか?」
 「い、いや、オヤジ、腹は痛いけど、薬は飲まなくても大丈夫です」 
 焦った村井は、飯も食えないうえに薬を飲まされたのでは堪らないと思ったのか、急いで言葉をつけ足した。

 すると担当は、口元をちょっと尖らせて、「でも、お前、さっきから痛そうにしているべ。だから遠慮しないで、あとで薬を用意しとくから、担当台まで取りに来い。それともお前、何か食えない事情でもあるのか? ん、何もないんだろ? だったら、俺の言うことを聞いて薬を飲め。いいな、わかったか」

 担当からそう言われてしまい、取りつく島もない村井は、それ以上断れなくなってしまい、しなくてもいい芝居をしたために、飲まなくてもいい薬を飲む破目になってしまったのだ。

 担当の目は節穴ではなかった。受刑者たちが密かに何かの賭け事で負けて、その罰として飯を喰えなくなっていることぐらい、はなから見破っていたのだ。だから、知らない振りをし、体のいい懲らしめを行ったのだ。

 つまり、お前らもやるとこういう憂き目に遭うんだぞ! と、暗に仄めかして、カマシを入れたというわけである。

 そのとき、階段を上ってくる靴音がしたと思ったら、入口に丸い顔をした看守の「毒まんじゅう」の井口が姿を現した。
 「総員51名。現在人員51名。異常なし」
 「51名! 少し遅くなりました」

 引き継ぎのために、二人の看守の間で挨拶が交わされる。
 担当看守の三条は村井の方にチラッと目を遣ると「毒まんじゅう」に、「あとで村井に腹の薬を飲ませてやってくれますか。どうも奴さん、腹の調子が悪いみたいですから、よろしくお願いします。それと、昼飯はまったく食べていません。それにプリンも残っているはずです。あ、薬は担当台に用意しておきますから、よろしくお願いします」

 そう言うと、三条は、交代看守の「毒まんじゅう」に軽く敬礼をして交代していった。
 食堂の中は、「毒まんじゅう」が来たことから、一転、凪のように静まり返っている。
 「三条担当は用事があって帰られた。午後からは俺が代わりに担当に就くことになったので、怪我のないよう、しっかり気を引き締めてやるように。いいか、わかったか!」

次のページ下手な芝居と「毒まんじゅう」

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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塀の中はワンダーランド
  • さかはらじん
  • 2020.05.27