【帯広刑務所編】修羅場で評論家ではダメだ、ナメられたら正々堂々と戦うしかない《懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.15
◼︎修羅場で評論家ではダメだ、舐められたらやるしかない
売られた喧嘩なら、「上等だ! この野郎! やってやるぜ!」と、不良らしく格好つけて戦いに挑むことができなければ、ヤクザはやっていけない。
駆けつけた警備隊員たちによって、二人が取り押さえられる。両腕を後ろ側に捻られ、飛行機の翼のように広げた格好にされると、頭を上から押さえられて、別々なルートから連れていかれた。
二人の顔は腫れ上がり、まるで巨大なポップコーンのオバケのようになっていたが、目だけは油を刷いたようにギラついていた。
連行されるとき、酒井は腫らした顔をわずかに歪めて、遠山たちの方へ向けた。もしかしたら、その顔は「ざまァみろ、やってやったぜ!」と笑っていたのかもしれなかった。そして跡には、散乱したテーブルや椅子だけが残った。
だが、警備隊員たちはなおも居残り、興奮した受刑者たちが、突然、再び狂暴になって暴れ出さないとも限らないことから、沈静化を図るためにしばらく睨みを利かせて、
「お前ら! 席に座われ! 落ち着けェ!」
目を血走らせて咆えまくっている。
こんなときでないと警備隊の出る幕はないので、張り切るのも無理はなかった。
菊池は日頃から筋っぽいことを言い、人を上から見下ろすような目線で生意気な口の利き方をしていたので、堅気たちからも敬遠されていた。周りの不良たちとも幾度かゴタゴタを起こしていたことから、工場では少し浮いた存在だった。
このようなタイプの不良は、どの工場にも一人くらいはいる。筋をうんぬんする者は結局、自分の吐いたその筋論で、いつかは自らを窮地に追い込んでしまい、自滅していくものなのだ。
ストーブの周りには再び人垣ができ、興奮冷めやらぬ体で、今しがた起こった喧嘩ファイトの評論が始まっていた。
結局、喧嘩の原因は何だったのか、最後までハッキリしたことはわからず、「どうも遠山さんが目障りな菊池に〝絵図〟を描いて、酒井に飛ばさせたみたいだぜ」という、真しやかな噂が広まっていった。
ボクは昔、広島のある組織のMという仲のよかった不良から「サカハラさん、青いね」と言われたことがあった。それは、ボクが、「オレは絵図を描くような、ゲスな根性を持った野郎は嫌いだよ。男は男らしく正面から堂々と……」と、自分の気性や生き方の美学を、話したときに言われた言葉だ。
きっと野球にたとえると、バカ正直に直球ばかりじゃ駄目で、時には状況に応じて絵図を描くといったような変化球も遣いこなせなければ、あざとい世の中、渡っていけないことから、「世間知らずだぜ」とでも言いたかったのだろう。ボクの甘チャンのような青さを知って……。
でも、ボクは江戸時代、旗本奴の水野十郎左衛門と争って殺されたヤクザの始祖、幡随院長兵衛のような、「絵図」だとわかっていて殺されに行った、「正々堂々、男らしくあれ」の任侠心を持った生き方が好きなのだ。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。