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地形と地理から大津宮の意味は解ける

シリーズ「瀬戸内海と河内王朝を地理で見直す」⑬

常に新たな視点を持ち、従来の研究では取り扱われなかった古代史の謎に取り組み続けてきた歴史作家・関裕二が贈る、『地形で読み解く古代史』絶賛発売中。釈然としない解釈も、その地にたてば、地形が自ずと答えてくれる!? 「瀬戸内海と河内王朝を地理で見直す」をシリーズで紹介いたします。

天智天皇の孤立、弟の大海人皇子は親蘇我派だった!

 中大兄皇子は天智6年(667)に近江大津宮に遷都、翌年即位した(斉明天皇の崩御時に天智元年と記されるも、即位したわけではなかったのだ)。天智天皇の誕生である。

 ここで、「なぜ中大兄皇子(天智天皇)は地の利の悪い大津宮を選んだのか」その謎が解けてくる。ヒントとなるのは、皇太子に選ばれたのが、弟の親蘇我派の大海人皇子だったことだ。なぜ天智天皇は、宿敵を抜擢したのだろう。それだけ天智天皇の器が大きかったのだろうか。

 答えは簡単なことで、「天智天皇の人気が無かった」からだ。近江遷都の時、人々は不満を漏らし、各地で「水流れ(火事。放火だろう)」が絶えなかったという。白村江の敗戦ののち、唐と新羅連合軍の襲来におびえ、各地に山城を増築し、ようやく情勢が落ちついたと思った矢先の遷都だ。誰もが不満を爆発させたのだろう。

外敵に備えた山城 

古代山城の一つという説がよく知られている鬼ノ城(岡山県総社市) 写真:関裕二

 

 もともと民衆も蘇我氏を支持していたのだろうから、天智天皇は孤立したにちがいない。だから、政権を運営維持するには、政敵(具体的には親蘇我派)と妥協するほか手はなかったのだ。そして、だからこそ、蘇我氏が推していた大海人皇子を、皇太子に据え、さらに蘇我系の豪族を重臣に取り立てたのだ。近江朝を、蘇我系豪族が席巻したのはこのためだ。

 ただし、天智天皇と大海人皇子の仲は修復されなかったようで、とある宴席で大海人皇子は槍を床に突き刺し、激怒した天智天皇は、大海人皇子を殺そうとしたという(『(とう)()家伝(かでん)』)。

次のページ天智天皇は盤石な体制で遷都を仕掛けたのではなかった!

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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