先が見えない時代に必要なメンタルとは【久瑠あさ美メンタルトレーニング】
久瑠あさ美の「コロナ禍以後をいかに生きるか」Vol.4
■本当の「前向き」って!?
現状、身体を鍛えることができない、運動の練習はほぼできてない状況ですから、私がメンタル・トレーニングを行っている他の選手からも、「これまでせっかく積み上げてきたものが、全部無くなってくようで怖い」と不調を訴える声が多く上がっています。 自分が積み上げてきた肉体のコンディションや練習にリセットをかけられたとしたら、それまで緻密に真面目にやってきた人であれば、なおさらダメージが大きい。
誰のせいでもない分、非常につらいと思います。
でも、そういった悩みを「うんうん、わかるわかる」と気持ちを聞くことが私の役割ではありません。私の仕事は結果を出すためのメンタルを創り上げること。トレーニングでマインドのポジションを引き上げることで、“いま”という現実の捉え方をガラリと変えていくことで、状況は全く変わっていなくとも、「あ、やれることは沢山あるな」と本人の視界が開けていくんです。
マインドのポジションが引き上がって、「練習に対しての捉え方を変えられそうです」と目を輝かした瞬間、その選手の意識は、「どうにもならない現実」ではなく「どうにかできる未来」に向かっていきます。そうなることを、「前向き」と呼ぶんです。
久瑠)——「○○さん、こんな時期で練習もできないけど、大丈夫ですか?」という問いかけに「いや、何とかなりますよ。心配しないでください」と多くの人は応えてしまう。これは「前向き」じゃないんです。「前向き」という言葉で自分の“いま”を包み隠したということです。
本当は、「大丈夫か」と心配されればされるほど、大丈夫でない現実を目の当たりにしてしまい、無自覚なダメージを受け続けてしまっているんです。
だから、「何とかできない」ことを「何とかできる」と言ってはいけない。
自分に対して嘘をついたり、ごまかしたり、見ないようにしたり……「先のことは分からないから、考えるのをやめよう」というのは、問題を後回しにしただけで、むしろ全然「前向き」じゃない。だから「ネガティブなポジティブ感」は危険なんです。
前向きになるためにも、まず「明らかにすること」です。
いつまでに競技が再開できるかなんて、一回リセットして捨てたほうがいい。
あなたのマインドは、周りの状況とは全く関係ない。「できようができまいが俺はやるんだ」でいいんです。
何か聞かれた時は、「もう全然ダメです」でいい。「もう筋肉も落ちてる」と正直になればいい。「ただし、もう次にやることは決まっています。新しい練習法を考えてますから」こう言える自分のほうが絶対に気持ちいい。「まだ何もないけれど、自分がやることは決まってるんですよ」と。
「やるべきことが自分に対して決まる」というのは、そういうことですよ。「なんとかなります」は本当は前向きではない。「できようができまいが俺はやるんだ」でいい。
それこそが自分の真のwantです。
「試合があろうが無かろうが、自分はやっぱりこの種目をやっていきたいんだ。見せる場所があろうが無かろうが、これが自分の人生なんだ」そんな自分を発見することで、その種目と新たな気持で向き合うことができるはずなんです。
■それぞれの道を、二人三脚で見つけ出す
私と話しても、周りの状況は変わりません。しかし、10年先のこと、あるいは引退後のことにフォーカスを向けた時には、今この瞬間の決断にはものすごく意味がある。
自分が何かできる状況でない時に、人生からの「どうする?」という問いかけが来た場合に、「自分はこうします」と自ら応えられるかどうか。コロナ禍は多くの人にとって、非常に重要なタイミングになると思います。
この連載をご覧になっているすべての方に私が同じことを言えるかどうか分かりません。それこそ、話してみなければ分からないことは沢山ありますから。
ただし、ここまで紹介したトップアスリートの例は、スポーツ選手だけでなく、会社の運営が困難になった経営者や、毎日通勤して何十年も勤めた会社に行けなくなってる方にも当てはまる話、応用できる話だと思います。
「自分がこれまでやってきたこと」と「この先やっていきたいこと」の分岐点に立ってることに気がついた時、それを続けたいのであれば、続く道があるはずなんです。
でも分岐点の先にある道は、これまで歩いてきた道とは絶対に違うものになります。その道は、いまここで自分が見つけていく道なんです。
全てが無くなるわけではないし、全てが続くわけでもない。そういう視点に立てば、本当の意味で自分の働き方も見えてくるし、人との付き合い方も見えてくる。
たしかに、「全て自分が決められる」ことは全て自分にのしかかかってくるという意味では怖いことだと受け止める人も多い。その感覚に慣れないと感じたり、見えないストレスを募らせてしまうということも起きるでしょう。
でもそれに対抗する力を、人間はちゃんと持って生まれてきています。人間は細胞レベルで、自分の道を選び取ることができる生き物です。
どんな人と会っても、一人ひとり違います。ひとつとして同じはないのです。その違いをそのままに、着実に前に進んでいく。
それこそが人間に真に備わる潜在的な力だと、この仕事を続けていて日々感じています。
(構成・動画制作/甲斐荘秀生)
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