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ドイツ人禅僧が、昨今のSNS依存に思うこと

今日を死ぬことで、明日を生きる⑩

「いまを生きる」ということは、「今日が自分の最期の日になるかもしれない」と思って生きるということです。そうすることで、今日という日を、自分の人生の中で最善の一日にすることができるでしょう。(本文より)日本仏教に魅せられたドイツ人禅僧、ネルケ無方の新刊『今日を死ぬことで、明日を生きる』より、珠玉のエッセイを紹介。生きるヒントが必ず見つかります。

「使う」「使わない」の選択肢が、自分自身にあることに気づく

 人は弱い生き物です。何かに頼って生きています。それは、家族であったり、友だちであったり、あるいはモノであったり……。ただしそれが過剰になると、心が不安定になり、欲望にとらわれすぎてしまいます。いわゆる「依存症」です。

 アルコール依存症やギャンブル依存症は古くから問題になっていますが、近年、欧米ではfacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)への依存度が非常に高くなり、社会問題となっています。日本でも、終日スマートフォンや携帯電話を見続けたり、LINEが既読になっていて返信がないと、不安になったりする人が増えているようです。

 考えてみると、これはおかしな現象です。私たちの生活を便利にしてくれているはずの道具に、私たちが縛られ、奴隷になっているからです。

 便利さを追い求めていくあまり、現代人は自らの首を絞めているのかもしれません。

 依存症を治すには、本人が依存しすぎていると気づくことが第一歩です。自覚がなければ治りようがありません。Twitterにしても何にしても同じことです。まず、それらの奴隷になって使われていることを自覚しなければいけません。自覚すれば、自由になろうとする意思が自然とわいてくるでしょう。

 禅問答に次のようなものがあります。

 ある僧侶が別の僧侶に、「私と君では何が違うと思う?」と聞きます。相手は「君は24時間という時間に使われているだけ。私はその時間を使っている。そこが違う」と答えます。

 1日(24時間)を生きているという意味ではふたりとも同じですが、ひとりは時間に使われてばかりで、もうひとりは時間を主体的に使っているというお話です。

ネルケ無方 撮影:さとうわたる

 あるモノに依存しているかどうかを判断するには、それを「しない」という選択ができるかどうかがポイントです。

 お酒やギャンブルもたしなむ程度であればかまいませんが、それにとらわれないためには、今日は「お酒を飲まない」「ギャンブルをしない」という〝自由〞を意識してください。

 スマートフォンや携帯電話を「見る」という自由もありますが、「見ない」という〝自由〞もあるのです。

 まずは、「使われている」ことに気づく。そして、「使う」「使わない」の選択肢が、自分自身にあることに気づくことです。

使われていることに気づき、主体的に使う。

今日を死ぬことで、明日を生きる』より 

 

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ネルケ 無方

ねるけ むほう

 禅僧。曹洞宗「安泰寺」堂頭(住職)。ベルリン自由大学日本学科・哲学科修士課程修了。 

1968年、ドイツ・ベルリンの牧師を祖父に持つ家庭に生まれる。

16歳で坐禅と出合い、1990年、京都大学への留学生として来日。

 兵庫県にある安泰寺に上山し、半年間修行生活に参加。1993年、出家得度。

 「ホームレス雲水」を経て、2002年より現職。国内外からの参禅者・雲水の指導にあたっている。

 著書に、『ドイツ人住職が伝える 禅の教え 生きるヒント33』(朝日新書)、『禅が教える「大人」になるための8つの修行』(祥伝社新書)、

 『迷いは悟りの第一歩』(新潮新書)、『日本人に「宗教」は要らない』(小社)などがある。 


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