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藤井聡京大教授「第二波に備え『8割自粛』を徹底検証すべし」【緊急反論③:自粛でなく水際対策の強化が感染を収束させた】

集中連載「第二波に備え「8割自粛」を徹底検証すべし」

■(4)感染国である中国・欧州からの入国規制(水際対策)が、感染拡大を下落させた

 では、「感染拡大スピードの緩み方」をより詳しく見るために、この図2のデータを使って、「この感染拡大スピードの拡大率」の推移を見てみることにしましょう。

 それが図3です。これは要するに、(物理学で言うところの)「加速度」の推移を見ることになります(なお、これについても、日変動を除去するため15日の移動平均を取る処理をしています)。

 ・・・理系で無い方は何が何だか分からなくなってしまっているかも知れませんが、これは要するに、「クルマのアクセルの踏み込み具合」だと考えて下さい。この数値が高いということは、アクセルをぐっと強く踏み込んでいるという事を意味しており、逆に低いということはアクセルを緩めているという事を意味しているわけです。

 この図を見ると、3月9日までは、アクセルを踏み込む力(加速度)がぐっと強くなっていき、3月9日からその力は緩んでいったことが分かります。

 そしてこのグラフからは、どの対策がどれだけ有効だったのか、よりくっきりと分かりますね。

 まず、やはり4月7日の緊急事態宣言や16日の全国拡大は何の効果も無かったことが見て取れます。

 一方で、政府による中国、韓国からの全面的な入国禁止、ならびに、欧州への渡航自粛要請や禁止が発令された3月9日から一気に「アクセル」が弱められた様子が見て取れます。

 その後の「10日の大規模イベント自粛の継続発表」も影響している可能性がありますが、これはただ単なる「継続」の発表であり、「アクセルを踏み込む」要因になったとは少々考えにくいとも言えます。

 その後、3月12日には欧州だけで無く、アメリカに対しても危険情報が発令されるなど、渡航の自粛・禁止の幅が拡大されていきます。

 そして3月17日には欧州との渡航・入国の事実上の「禁止」が公表されます。

 そもそも3月当時、日本よりも中国や韓国、欧州の方が感染者が多く、そうした国々との間の移動さえ無ければ、日本に感染が急速に拡大する状況ではなかったのです

 ところが3月初旬では、大量の海外からの渡航者が日々関西空港や成田空港に降り立ち、毎日毎日、ウイルス感染者が日本列島に「新規供給」され続けたのです。だから国内の感染拡大が日々、「加速」していくのも当然だったわけです。

 一方で、そういう渡航を制限すれば、「外部からの新規供給」が途絶えるわけで、アクセルが必然的に緩められ、感染速度が収まっていきます。

 (残念ながら、「来日者数」のデータは「月ごと」にしか整備されていないので、細かい分析はできないのですが)そもそも2月は、100万人以上の入国者(邦人含む)がありました。一方で、3月には上記のような「入国規制」や「渡航自粛要請・禁止」が発令され、約20万人に激減。そして、4月にはなんと0.3万人以下、つまりほぼ「ゼロ」の状態に至りました。おそらく、3月の上旬は2月とほぼ同様の速度で海外からの入国者がいた一方で、中旬以降は、「ほぼゼロ」という状況になったのでしょう。

 そう考えると、この図3に示された、3月中旬以降の「感染拡大スピードの加速度の急激な下落」は、3月中旬の政府の「水際対策の加速」による感染拡大国からの入国者の激減に対応していると考えるのが、妥当な結論だと言えるでしょう。

 つまり、かつて月100万人の勢いで押し寄せていた(多くの感染者を含んだ)渡航者をほぼゼロに削減したことで、感染拡大は大きく収まっていったわけです。

■(5)初期における水際対策の不徹底こそ最大の禍根。安倍内閣の政治責任は甚大である

 以上の検証結果は、水際対策が如何に大切かを意味しています。

 日本ではここ数ヶ月、西浦氏達の主張する8割自粛や尾身氏らが主張する2mのソーシャルディスタンス論の重要性ばかりがメディア上で取り上げられた一方、水際対策の重要性はほとんど議論されてこなかったのは、日本の感染症を巡るこれまでの議論の不条理さを改めて浮き彫りにする事実と言えるでしょう。

 この点に思いが至るなら、我々は今こそ、初期段階において「水際対策」をやらなかった安倍内閣に、強い批判の目を差し向けるべきでしょう。

 そもそも1月下旬、唯一の感染国であった中国に対して水際対策を徹底するどころか、逆に、安倍総理本人が動画に出演までして春節の中国観光客を大量に受け入れるプロモーションを大々的に展開したのです。それさえ無ければ、1000人近いコロナ感染死者も、8割自粛に伴う大量の倒産、失業、貧困も無かったことは間違いないでしょう。

 だからこの一点において、安倍内閣には超巨大な政治的責任があるのです。国民はこの安倍内閣の深刻な罪科を絶対に看過してはなりません。

■(6)今後の感染症対策のためにも、「自粛による社会被害」を明らかにすることが必要である

 一方で、以上の分析は、「4月7日の8割自粛要請」やその全国拡大(さらには、GW明けのその延長)には、感染抑止効果は無かったことを改めて示すものでした。

 今後の対策を考える上で、この検証結果は途轍もなく重大な意味を持つものだと筆者は考えます。

 ただし一言申し添えておくなら、だからといって「自粛」「ステイホーム」そのものが全く無意味だったかどうか、という議論はまた別の議論です。言うまでもありませんが、理論的には接触を断てば、感染が縮小するのは自明です。

 しかし、少なくとも今回のデータを見る限り、今回の第一波の収束においては、その「自粛による効果」を「渡航者抑制の効果」が「凌駕」していたというのが実態だったと考えられます。だから、「第一波の収束」においては、「自粛」「ステイホーム」は(仮に幾分の効果はあったとしてもそれは)、さして大きな役割を担わなかったと考えられるわけです。

 では、そうした事後解釈も含めた上で、今後私達は、どのような感染症対策をすればよいのでしょうか。この点を考えるには、やはり、「自粛による副作用」を明らかにしなければなりません。副作用がないなら、あまり効果があろうが無かろうが8割でも9割でも自粛要請をすればよいのですが、その副作用が深刻ならば当然そういう態度は「大罪」の誹りを免れ得なくなるからです。

 ついては次回は、「自粛による副作用」つまり「自粛要請による経済被害の実態」に的を絞った議論を展開したいと思います。

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藤井 聡

ふじい さとし

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授(都市社会工学専攻)。京都大学工学部卒、同大学院修了後、同大学助教授、イエテボリ大学心理学科研究員、東京工業大学助教授、教授等を経て、2009年より現職。また、11年より京都大学レジリエンス実践ユニット長、12年より18年まで安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)、18年よりカールスタッド大学客員教授、ならびに『表現者クライテリオン』編集長。文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。専門は公共政策論。著書に『経済レジリエンス宣言』(日本評論社)、『国民所得を80万円増やす経済政策』『「10%消費税」が日本経済を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』(共に晶文社)、『プラグマティズムの作法』(技術評論社)、『社会的ジレンマの処方箋』(ナカニシヤ出版)、『大衆社会の処方箋』『国土学』(共に北樹出版)、『令和日本・再生計画』(小学館新書)、MMTによる令和「新」経済論: 現代貨幣理論の真実(晶文社)など多数。

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  • 藤井聡
  • 2019.10.28