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日本の経営者はコロナ便乗リストラしている場合じゃない

世界の支配層(の代理人たち)が道徳を唱え始めたほど世界は危機に瀕している

■『2030年ジャック・アタリの未来予測』は利他主義を説く

ジャック・アタリ(写真:Abaca/アフロ)

 アタリには50冊以上の著作がある。近作は『2030年ジャック・アタリの未来予測—不確実な世の中をサバイブせよ!』(林昌広訳、プレジデント社、2017年)である(https://amzn.to/37IT2I7。 原題は、Vivement après-demain!(明後日、強くあれ!)だ。「今日や明日には無理でも、明後日にはできるから諦めずに強く生きよう!」ということらしい。

 この本に描かれる未来は、世界経済フォーラムが描く「第四次産業革命」の未来像と同じである。言うまでもなく日本政府が描く「Society5.0」や「ムーンショット目標」が描く未来像と同じである。

 アタリは『2030年ジャック・アタリの未来予測』において、現在の世界が抱える問題と今後に起きるであろう諸問題を網羅し、それでもなお明るい未来を人類が手にすることができるための方法を提示している。まず個人がすべきこととして次の10段階を提示している(翻訳より引用)。

1 自分の死は不可避だと自覚せよ
2 自己を尊重しろ、自分自身のことを真剣に考えろ
3 変わらない自分を見つけろ
4 他者が行おうとすること、そして世界の行方について、絶えず熟考しながら自分自身の意見をまとめろ
5 自分の幸福は他者の幸福に依存していることを自覚せよ
6 複数の人生を同時かつ継続的に送る準備をせよ
7 危機、脅威、落胆、失敗に対する抵抗力を身につけよ
8 不可能なことはないと思え
9 実行に移す
10最後に、世界のために行動する準備をせよ

 これだけ読むとまるで自己啓発本だ。今さら「欧州を代表する知性」が言うほどのことではない気がする。ひょっとしたら欧州人は「自分の幸福は他者の幸福に依存していること」を知らないのだろうか。アタリの背後にいる人々には新鮮な教えなのだろうか。

 さらにアタリは世界がなすべきこととして次の10点を提案している(翻訳より引用)。

1 学校や法律の教科書など、いたるところに、利他主義、寛容な精神、誠実さを養うための学習を取り入れろ。
2 国連総会のもとに、次の三つの機関(改革された安全保障理事会、次世代議会、世界環境裁判所)を設立せよ。
3 世界的な紛争が勃発するリスクと闘え。
4 法の支配と暴力を抑制する合法的な手段を強化せよ。とくに、女性や子供に対する暴力を撲滅するのだ。
5 世界秩序の連携を組織せよ。
6 世界通貨を導入せよ。
7小規模農家の農地を守るために、農地に関する所有権を世界的に強化せよ。
8 積極的な経済を推進するための世界的な基金を創設せよ。
9 新たな技術進歩を世界中の人々が利用できるように支援せよ。
10 最後に、今まで述べたことに対する取り組みの進行状況を、企業、都市、地域、国、世界という単位で客観的な指標を用いて計測せよ。

 これだけ読むと、まるで「世界連邦政府」がすでに存在していて、その世界連邦政府の顧問の座から世界を睥睨して、アタリが指令を送っているかのようだ。なるほど、「世界通貨」は導入されるらしい。おそらく、それはデジタル通貨になるのであろう。紙幣はウイルス汚染しやすいという大義名分のもとに。

 最初の項目の「利他主義」を学校や法律の教科書で教えろというのは、それほどに利己主義が世界に蔓延しているということなのだろう。蔓延しているらしき利己主義は、「情けは人のためならず」を知らない頭の不自由な類の人々の持つ利己主義なのだろう。

 ほんとうに利己主義に徹したら、逆説的に利他主義にならざるをえない。損得に徹したら、損して得を取る。ほんとうに利己主義に徹したら、他人の不幸や近隣国の困窮など望まない。平和と繁栄と自由と民主制を享受する国は隣国への侵略など思いもよらないのだから、隣国がそういう国になるのを支援するのが一番の安全保障策だ。

 普通の平凡な日本人が当然のこととして考え、あらためて言葉に出すこともしないようなことを、「欧州を代表する知性」のアタリがわざわざ書いている。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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