「50歳くらいが最も向いている年齢」出口治明氏、シニア起業のススメ
出口治明さん5月毎日更新 Q.21 出口さんは60歳で開業されましたが、起業に対する考え方は?
リスクをコストに転化すれば、起業は何も怖くない
ベンチャー企業というと、若い世代が立ち上げるイメージを持っている人が多いかしれませんが、僕は、50歳くらいが起業に最も向いている年齢だと考えています。
仮に、現代の日本人が大人になるまで親に養ってもらう期間がだいたい20年、そして人生80年だとしたら、社会に出て自分で働いて生活する期間は60年。そのちょうど半分の30年目が50歳にあたり、マラソンで言うところの折り返し地点になります。
そして、折り返し地点まで辿りついた経験があれば、また同じ道を戻るときに大いに活かすことができる。起業するにしても、未知の分野に挑戦することになる若い世代とは異なり、リスクがかなり低くなるのです。
なぜなら、自分自身の能力や可能性はすでにある程度は理解しているので、起業してからどのようなリスクが伴うのか、自分で計算できるからです。
子どもも大きくなっているでしょうから、30代で家庭を初めて持ったときよりも、今後子どもにかかる費用も十分読めるはずです。
起業する人に対して、よく「清水の舞台から飛び降りるつもりで頑張れ」などという例えが使われることがありますが、なぜ飛び降りることに怖さを感じるのか。
それは底が見えないからでしょう。
ところが、50歳になって清水の舞台から下を覗いてみて、実は、底まで1メートルしかないことがわかれば、思い切って飛び降りることだってできますよね。
つまり、リスクとは、正体がわからないからこそリスクなのであって、目に見えてしまえば、その瞬間にリスクはすべてコストに転化できるというわけです。
あとはもう、そうしたコストにどのように対応するかどうかだけですから、怖さを感じる必要もありません。
このように、50代のビジネスパーソンが起業するメリットは想像以上に大きい。ですから、50代はどんどん起業すればいいですし、そうすれば若者たちもその背中を追い掛けてくると思います。
ただ、現状はなかなかその通りには行かないようです。
50代が大企業の中でふんぞり返って、若者に起業を説くという話も聞きます。「清水の舞台から飛び降りろ」などと言ったところで、それでは誰も飛び降りる気にはなりません。
本来はロールモデルにならないといけないはずの大人が、若者だけにリスクを負わせるのは、無責任ではないでしょうか。
もちろん若いうちは、起業しないほうがいいというわけではありません。
僕自身が、若者に起業を勧めることもあります。その時は、タイプによって分けるようにしています。
積極的に起業を勧めるタイプは、自分で考えることや自分で勉強することが好きだという人です。自分の意志で率先して動けるので、起業やベンチャー企業への就職の道を選んでも、十分こなしていける可能性を秘めているでしょう。
それに対して起業を勧めないタイプは、どちらかと言うと受け身の人。社会人として成長するうえで誰かの協力が必要とされる場合は、教育システムなどが整備されている大企業への就職が向いていると思います。
これは能力の差ではなく、向き不向きということが大きい。その意味でも、自分の向き不向きを認識している50代は有利と言えるのです。