出口治明氏に聞く、世代間の“不公平”。「アジテーションに惑わされず解決方法を議論すべき」
出口治明さん5月毎日更新 Q.27 公的年金保険について、世代間の不公平が言われますが?
「世代間の不公平」とは、少子高齢化を言い換えているだけ
僕が社会人になったのは1972年ですが、新入社員に労働組合から紙が配られました。当時、大卒の同期は180人ぐらいいたと思います。
その紙には、定年まで勤めた場合の生涯収入が書いてありました。
当時は55歳が定年でしたが、あなたは55歳の時に部長か支社長になっていますと、それで年収は、これぐらいです、ベースアップは含みません等と。それを見ながら説明を受けるんですね。これをよく見て住宅ローンを借りたり、人生の生活設計を立ててください、ということでした。
ところが3年ぐらいして、このペーパーを見たら、55歳の時の役職が部次長もしくは支社次長になっている。つまり高度成長で大卒がどんどん増えてきたので、単純計算しても、もうそんなにポストがないということがわかったのです。部次長どまりになっていたんですね。
それからまた3年ぐらいしたら、今度は課長どまりになっていました。ポストが足らないから、当然、最後が課長モデルになる。世代間の不公平とは、まさにこのことですね。
「出口さんの頃には部長モデルの紙をくれたのに、僕の時代は課長モデルの紙で、しかも生涯収入も減っているじゃないか」「こんな世代間の不公平は許せない」と労働組合に文句を言ったら、どうなると思いますか?
冷静に考えれば、社員が増えてきてポストもこれくらいしかない、だったら仕方がないということがわかると思います。
日本の公的年金保険は、制度が完成した1961年ころは11人の若者でお年寄り一人を支えていました。それが今や騎馬戦が崩れて、肩車に向かっている状況です。このまま進めば近い将来には、一人ちょっとで一人を支える時代になります。残念ですが、こうした状況下では、世代間の公平が保てるはずがありません。これはデモグラフィーの変化そのものなのです。
メディアでは時折、世代間の不公平を煽る記事を見ますが、それは、まさに社会を分断しようとするアジテーションそのもので、こんな不毛な議論はないと僕は思います。
本当に世代間の不公平をなくそうと考えるなら、解決方法を議論すべきです。たとえば、移民を大量に入れて支える人数を11人に戻すべきだ、など解決の糸口となる方法を提示すべきです。
きちんと議論することで、リテラシーを上げていかなければなりませんね。