◼︎目の前でいきなり武装警官による逮捕で緊張が走る

　7月1日の午後1時、デモの開始の1時間前に会場となる銅鑼湾駅に到着。香港政府はこの日4000人の警察を配備していると発表。地下鉄の駅を上がり、SOGOデパートの前に到着すると、すでに大量の武装警察が待機している。その前では政治団体の「人民力量」の、譚得志氏が演説を行なっていた。彼は5月に香港国安法が発表された時にも、反対演説を行ない逮捕されている。今日は中国人民解放軍の制服姿に身を包み「香港の一国二制度は死亡し、中国と同じ一国一制度になった！」と抗議を続け、警察はスピーカーで彼に撤収するように、警告を発している。と、野次を飛ばした一人の中年男性に向かって突然10人ほどの武装警察が突進、地面に押し倒し拘束した。

　デモの開始まで、まだ1時間もあるのに突然目の前で起こった逮捕劇に唖然とする。香港国安法が施行され初めてのデモは数段危険度が上がっているのを予感させるスタートだ。　

　デモの集合場所となるビクトリア公園へ向かう道には民主派団体が、「香港国安法施行反対」、「中国共産党よ、滅びろ！」と、書かれたビラを配っている。ビクトリア公園に到着すると警察によって封鎖され中に入れなくなっていた。仕方がなく駅に向かう道を引き返すと、香港民主派の重鎮で立法会の元議員である李卓人氏が演説を行なっていた。

　「デモ隊は暴徒ではない、政府の暴政があるだけだ。デモ逮捕者の釈放など、五つの要求に政府は答えよ!!」と、参加者に訴えている。そこに武装警察が到着すると「直ちに演説をストップし、参加者を煽るのを止めよ！」と、警告を発する。李氏は「あんたに何の権利が合って、私の演説を止めるのか！」と応戦すると、いきなり警官が李氏の手からマイクを奪い取り、台の上から引きずり下ろす。周りにいたスタッフも引き倒されると、それを撮影しようと一斉に取材陣が押し寄せ、現場は混乱を極める。その時、最前線の武装警察が取材陣に「お前ら下がれ！」と、怒声を浴びせながらいきなり「胡椒スプレー」を発射してきた。最前列にいた自分も顔と両手に直撃を受け、思わず退散をする。辺り構わずまき散らされた胡椒スプレーを浴びた李氏と取材スタッフ、それに警察官まで座り込んでいる（実況映像参照【20200701香港】警察にマイクを奪われ演説を中止させられる民主派の李卓人氏と取材陣に胡椒スプレーを吹きかける武装警察　https://youtu.be/8MKbJr0c3E4）

　しかししばらくすると、自分も胡椒スプレーを浴びた皮膚が激しく熱を帯び、焼けるような激痛が走りだす。タオルでぬぐうと余計に刺激したのかさらに痛みが増す。脇道にあるコンビニへと入り、ミネラルウォーターを買い込み、顔と腕を洗うが、肌までしみ込んだ胡椒スプレーの刺すような痛みには焼け石に水だ。それに加え30度を超える暑さで、意識も朦朧としてくる。

　とりあえず現場に戻ろうとカメラを持つと、前方からロープを持った警察が近づいてきて、道を封鎖されてしまった。慌てて後ろから抜けようとすると、すでに後ろの道も警察がロープを張って塞ぎ完全に包囲されている。「しまった！」と、思うも時すでに遅く、50人ほどのデモ参加者、取材陣と共に警察に軟禁されてしまった。胡椒スプレーの痛みで、油断していたにしてもあまりに間抜けである。「まさかここで逮捕されるのか・・・」。香港国安法の「外国人も最低3年の懲役刑に課される」と、いう条文を思い出し、恐怖が襲ってくる。「警官隊に撲殺される瞬間までカメラを離すな」といって私をデモ現場最前線に送り出した編集者の顔も浮かんだ。

　その時、数人の取材陣が記者証を警察に見せ、包囲網から脱出しているのが目に入った。自分も彼らの後に並び、記者個人の名刺を見せる。日本語で書かれた名刺を凝視する警察に、日本のパスポートも見せながら「I am Japanese　Reporter」と、英語で伝えるも数秒の沈黙がある。と、隣にいたもう一人の警察官が「OK、You can go out」と言い、包囲網から離してくれた。平常心を装いながら数十メートル歩き、後ろを振り返ると、身体中の力が抜ける。その包囲網の中には,中国人民解放軍姿の譚得志氏の姿もあった。彼はこの日、再び逮捕された。