島根「鯖街道」の町・雲南で こだわりの名人が焼く、ブラック&ゴールドな絶品「焼き鯖」
〈サバジェンヌの 日本全国ごちそうサバです!①〉
藤原さんは続ける。「だって大事じゃないですが、ビジュアルは」
ピシっとしたい藤原さん、焼き方も目指すところがある。
「カリッと焼きたいんです」
その焼き方は掟破りだ。
「強火の近火で焼きます」
えー!?
通常魚を焼くといえば「強火の遠火」なはずだが藤原スタイルはそうではない。「表面を早く焼き固めて、中のうまみと水分を逃さない」ためだという。
「いろいろ店によって違うと思うけど、カリカリに焼けたのが好きなんですよ」
カリカリ??
「表面をきれいに仕上げるというよりむしろ全体を強く焦げさせるくらいが好きなんです」
だからあえて「強く」「焦げる」まで焼く。
焦げ!?
目指すのは前代未聞の「ヘビー級の焦げ水準」!
とにかく、藤原さんに焼いていただこう。串に刺したサバを、焼き台にのせ、じっくり焼き加減を見定めながら表、裏、焼くこと、約30分。藤原さんのコレという焼き加減に仕上がった「焼き鯖」が登場!!
おおーっ。藤原さんが目指す通り、背中に定規を入れたかのように、ピシッとまっすぐ。気持ちいいくらいストレート!
そして背中側、黄金色。おなか黒い! 頭、黒い! ブラック&ゴールド! しかしコレが藤原マジックである。さっそくいただく。カリッと焼けた鯖にはしを入れると、ほわっと、ふっくらした身。なんだか、炊き立ての白米のよう。
そして、ここからが焦げの威力。身といっしょに食べると、なんともいえぬアクセント! ジューシーな身にカリカリの焦げが、食感とともに香ばしいアクセント! プリンとカラメルソースの至福にどこか似ている。思わず叫ぶ。
「焦げ目上等!」
焼き鯖をほぐすたびにときめく。あっさりした背中、脂こってりのお腹。そしてカリカリの焦げとのマリアージュ。「さばを1本焼く意味」を実感するうまさだ。「骨から出るうまみもあるんですよ」と藤原さん。切り身では味わえない、躍動感のある美味しさは悶絶モノだ。
そんな藤原さんでも毎日が勝負。「コレ! という最高の1本に焼き上げるのは難しいです」という。産地が同じでも、日々、形もサイズも脂のりも違う。一尾として同じサバはいない。完璧な焼き鯖は、匠の技とサバとの出合いが生んだ「芸術品」なのである。
そうそう、もうひとつ藤原鮮魚店にはすごいものがある。店頭に置かれた、焼き鯖を並べるための木製の陳列棚。なんと「さばショーケース」である。
「父が特注したんです」と藤原さん。「前面は見通しをよくするためにガラス張り、両サイドは風通しをよくするために網を張る」という、「美と機能性」を激しく追及した藤原さんのお父さんのリクエストよって、製作されたもの。ガラス越しにみる焼き鯖の美しさよ。ジュエリー並みの扱いである。うっとり。
焼き鯖が余ったときは、たまねぎと煮付けたり、キャベツなどの野菜と酢の物にしたり、お茶漬けにして食べる。さらに骨やかしらをおわんに入れてしょうゆを加えた汁物にするなど、まるごと味わい尽くすのだそう。
うまそうだ。しかし試してみようにも、あまりの美味しさに1尾、完食……。しかし、雲南の鯖グルメはまだまだこれだけでは終わらない。この焼き鯖を使った絶品料理があるのだ。
~次回へ続く~