男をイジる「苛める女」ジャケには意味不明なシチュエーションのものばかり【美女ジャケ】
【第15回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
■拘束衣の3人組を前にして、なぜナースは補虫網を持っているのか
ともあれ優位性には目線の位置が大きく左右するわけだ。上から目線なんていう日常使われる言い方があるように。
そんな観点からビリー・メイの「BILLY MAY plays for Fancy Dancin’」を見るとどうなのだろう?
ちなみにすらりとした美女に「踊らされている」小男は、楽団指揮者のビリー・メイさんではない。うしろにはハンサムそうな男性と美女の調和のとれたカップルを配して、手前のお茶目というかコミカルな男性を余計に強調している上手い構成だ。
ここで男が「踊らされている」と感じるのは、女性がすらりとして目線の位置が男性よりもずっと高いこと。そして男がコミカルな動きをしているからだ。まるで猿回しかのように。そうそう、まさに女のオモチャ。
筆者は高身長女性が好きで、こういうビジュアルにすぐに反応してしまう。高身長美女になら「踊らされて」も良いでしょう!
またも寄り道になるが、数年前、「東京新聞ためしよみ」のチラシがポスティングされていた。モデルはお笑いタレントの又吉直樹、身長164cm。となりで彼の肩に手をかけて(しかも曲げたひじを!)微笑む美女は、ハイヒールを履いていることもあって、ゆうに20cmくらい高い。
これはソソられた。こういう高身長美女に肩にひじを置かれてみたいよね、って。
女性の優位、あるいは見下しなどが好きなのは男のマゾヒズムだと思う人が多いかもしれないが、ことはそう単純ではない。
19世紀末のヨーロッパ文化に色濃かった「女性崇拝」、あるいは中世から古代にさかのぼればグノーシス主義的異端のイシス信仰にまで行きつく女性性への崇敬もある。
女性崇拝とは単純なマゾヒズムではなく、へレニスティックな感性のことなのだ。
と品の良いことを書いてしまったが、きわめて下品で笑えるジャケットがある。ちょっとカントリー風のコーラス・グループ、サムシン・スミス&ザ・レッドヘッズの「CRAZY PEOPLE」。もう、これはどうしようもないジャケだと思う。
まず、3人の男に品がない。よほどの三流だろうと思ったら、意外にもけっこうヒットを放ったグループだった。歌っている映像を動画サイトで見たが、いたってまとも、というかふつう。
ナースの3人。こんな太ももを露わに、胸もはだけて男を苛めていたら、これポルノでしょう! と思うのだ。なにも性器を露出したものだけがポルノではない。隠して隠してもダダ洩れのエロさもポルノなのだ。
この3人娘もじつに品がない。しかもよく見ると美人がひとりもいない(と思うのだ)。二流モデル臭芬芬(ふんぷん)なのだ。ロゴもダサいし、売ってしまおうか何度も迷ったが、結局手放せなかった。
1950年代のある程度、メジャーなレーベル(EPICレコードは、ジャズやクラシックも出している)で、ここまで品なく、くだらなくエロいジャケはなかなかないから、それはそれで貴重な気がするのだ。
じつのところ膝下丈のナース・ルックに惹かれるところもあるし……右端のナースはちゃんと「尊大」にも腰に手をやっているし……と、悪女と手を切れない情けない男の気分になるものだ、こういうレコードを手放せないというのは。
そんなエロさとは別に、男たちが拘束衣を着ているあたりもどうなのだろう? タイトルとかけて精神病院を連想させるし、いまなら絶対にアウトでしょう、これは。しかも左のナースが捕虫網を持っているなんて、当時は笑いを取れたのかもしれないけれど、これもいまなら人権問題になるかも。