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11年連続夏の甲子園出場へ。聖光学院には「エキス」がある

福島県の雄・聖光学院が挑む春季東北大会、その意義

聖光学院の「エキス」――心

 横山部長は選手たちが導き出す答えを「エキス」と表現した。
 聖光学院は人間力を何より重んじる。そうはいっても、そのエキスの味は毎年違う。結果を出しながら自分たちの弱さを見つめさせた年もあったし、最低のスタートからさらにどん底に突き落とし這い上がらせた年もあった。優等生集団に泥臭さを叩きこんだ年だってあった。様々なアプローチによって夏まで改革を進め、チームを戦後最多記録となる10年連続で甲子園に導いた強みが、聖光学院にはある。

横山部長兼コーチ(左)と斎藤監督(真ん中)。

 選手も人間である。性格は誰一人として同じではない。指導の原理原則が存在しようとも、マニュアル通りの育成でチーム、人間力を形成できるほど高校野球は甘くない。
 聖光学院は、その教訓を日々の血肉としている。だからこそ、横山部長は「心だけは譲れない」と矜持を示すわけだ。

 今年のチームについて、斎藤監督と横山部長は異口同音に「自分勝手」と称する。
 横山部長が理由を説明する。

「個人の能力で言ったらすごく高い。オフの体力診断でも過去最高くらいの数字を叩き出すような選手たちだから。選手一人ひとりも、自分を追い込むことができる。でも、選手同士の結びつきというかね、相手への気遣いが希薄。そういう認識がまだちょっと足りないチームだから。例えば、僕らが『今日はウエイトをやって終了』と言えば『ラッキー』って思うようなね(苦笑)。そうすれば、空いた時間で自分の練習ができるわけだから。そういうね、『やりたいようにやるだけ』っていう気持ちがあるから、まだ人間として未熟だって思わざるを得ないんだよね」

 

 今のチームに求められるもの。勝手な解釈をすれば、「チームをひとつにまとめる」といった簡単な言葉では表せないはずだ。人間の中身は人それぞれ。それでも、最大の目標を共有し、その方向に全員足を向かわせる。少しでも歩調が乱れている者がいれば、時に叱咤し、ある時には手を差し伸べる。それがやがて、今年の聖光学院の「エキス」となって実を結ぶのではないだろうか。
 僕は羊飼いだから――。横山部長のそんな言葉が脳裏をよぎる。

 勝利の一本道へと誘うために選手たちの現状を見極め、厳しい言葉を与えながら、愛情を持って尻を叩き人間力の土台を築く――。それができて初めて、チームの的確な仕上げを斎藤監督に託せるのだと、横山部長が話してくれた。
 横山部長の言葉を受け、斎藤監督は「そうだねぇ」とニヤッと笑う。

「まさしく、そうなのかもしれないね。今年のチームは大変だよ。みんなバラバラだから。でも、優等生ばかりのチームよりは見ていて面白いよ。『こいつら、夏までにどうなってくれるのかな?』って期待感があるというかね。部長だってそう思っているはずだよ」

 バラバラのチームへの期待感。選手たちは春季大会で指導者たちに応えた。単なる勝利で応えたわけではない。監督や部長が設定した「制約」のもと、彼らは勝ったのだ。
 準々決勝の学法石川戦ではノーガードで打ちあった。相手エースの尾形崇斗は、最速148キロをマークするプロ注目の右腕である。試合は、初回から学法石川に主導権を握られながらも、9回に同点とすると延長11回に一挙4点を奪い、11-7で打撃戦を制した。この試合でのバントはセーフティの1本のみで、盗塁もひとつだった。

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田口 元義

たぐち げんき

1977年福島県生まれ。元高校球児(3年間補欠)。ライフスタイル誌の編集を経て2003年にフリーとなる。Numberほか雑誌を中心に活動。試合やインタビューを通じてアスリートの魂(ソウル)を感じられる瞬間がたまらない。現在は福島県・聖光学院野球部に注目、取材を続ける。


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