11年連続夏の甲子園出場へ。聖光学院には「エキス」がある
福島県の雄・聖光学院が挑む春季東北大会、その意義
全国制覇を見据えた采配
福島県屈指の破壊力を誇る東日大昌平との準決勝でも、がっぷりよつで組み合った。「終盤まで7-7くらいの試合かな?」。斎藤監督はそう言っていた。つまり、この試合も打ち合いを求めていたのだ。試合は5回まで1-2と監督の期待を裏切る展開だったが、6回に打者一巡の猛攻で4点を奪うと、7回と8回にも2点ずつ挙げ9-6で競り勝った。「学法石川の試合もそうだけど、だんだん終盤の粘り強さが出てきた」と、斎藤監督が手応えを口にしていたものだ。
打撃戦をものにした2試合とは一変、いわき光洋との決勝では選手を試した。2回までに7得点と大量リードを許していたからではない。斎藤監督は「東北大会につながる試合がしたい」と、最初から控え選手を投入する腹積もりでいたのだ。この試合に出場した選手は16人。残り4人のうち3人が投手、ひとりが専任の三塁コーチャーだったことを考えると、聖光学院はほとんどの選手を決勝で投入したことになる。「いろんな選手をふんだんに起用できたことが収穫」。18-3の大勝にも斎藤監督に油断はなかった。
春季大会での聖光学院は、機動力や投手起用、細かいサインプレーなどを極力控えていた。断言したいのは、相手を見下しての采配ではないということだ。聖光学院は全国制覇を見据えている。春に勝つ意義を唱え、夏への糧とするためには、この時点で県のライバルを圧倒できるくらいでなければ、本番の夏に甲子園で惨めな思いをするどころか、福島すら制することはできない――そんな深謀を強く感じたものである。
――実際にどうなのか? 斎藤監督に狙いを聞くと、不敵な笑みを浮かべ、こう述べた。
「まだ、戦いの苦しみが足りてない。去年のチームはそれがあったんだけどね。今年はスイッチが入ったら強いんだけど、まだタフさが足りない。早稲田実業と日大三高の試合と比べたら、まだ甘い。10分の1くらいのタフさだね。夏はこんなもんじゃない。春に負けるくらいならそこまでのチームと思って見ている自分がいたからね」
チームに求めるものが高すぎる。
今年の春季東京都大会の決勝は確かにすさまじかった。勝利した早稲田実は、9回に日大三に7点を取られ勝利が絶望的となりながらも、その裏に清宮幸太郎の、その試合2本目の本塁打で同点とし、流れを引き寄せた。延長12回にサヨナラで優勝を決めたあの一戦は、地方大会でありながら高校野球史に残る伝説に値する試合だった。
斎藤監督が目指すのが「伝説」なのであれば、確かにまだ甘い。だからこそ、東北大会で少しでもそこに近づこうとしているのではないか。
6月8日から開幕する春季東北大会。聖光学院は初戦で強豪・仙台育英と対峙する。前年秋の東北大会。センバツ出場をかけた準決勝で苦汁を嘗めさせられた相手である。リベンジとしてもまたとない舞台だ。
東北大会に向け、こう宣言した斎藤監督の目には力が宿っていた。
「『春=夏』とは考えていないけど、県大会とは違った苦しみがまた味わえる。優勝するくらい凄みのある野球をしてほしいよね」
今や、東北にも全国と対等に渡り合える猛者が顔を揃える。そのチームに凄みのある野球で圧倒すれば、伝説の足音が聞こえてくるのかもしれない。【高校野球関連記事:機動破壊ーー健大高崎の知られざる取り組み】