「教育よりもスキル」を教える大学で優秀な教員は養成できるのか
第36回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-
■「即戦力」を育てようとする教育学部
「大学の教育学部は、どんどん『師範学校化』しつつあります。これが、日本の教育を『型』にはめようとしている元凶のような気もします」と、ある教育学部の教授が匿名を前提に語ってくれた。
師範学校とは小学校や国民学校の教員の養成を目的とする旧制の学校のことで、1872(明治5)年に東京に官立師範学校が創設され,のちに各府県に公立師範学校が設けられた。1886年に師範学校令が公布されて師範教育の基礎が確立された。時代的なものもあり、その方針は画一的で、型どおりの指導を実践する人材の養成が目的だった。現在の教育学部が師範学校化しつつあるのは、教育が「戦前回帰」しているということにもなる。
教員の話を聞いているなかで、よく話題にのぼるのが教員の工夫の余地がない「画一的な授業」についてである。「授業の手順から板書の仕方まで指導を受けます。ガチガチに決められていて、自分なりのやり方などは否定されます」と、ある小学校教員は話す。
このような教員による画一的な授業は、すでに大学での教育から始まっているというわけだ。学校現場では画一性が求められているために、大学ではそのための人材養成を優先しているともいえる。
「初任者が実践的な指導力や対応力を充分に身に着けているわけがないのに、それを求める声は強まっています。『そういう力を持った人材がいない』と不満の声が大きくなってきている。それを大学でやれというのは、実は、おかしな話なんです」と、前述の教授が続ける。
初任者、つまり教員採用試験に合格して初めて学校現場に足を踏み入れた教員が、すぐに学級担任を任されるのは珍しくないどころか、いまや普通になっている。3月までは学生だったにもかかわらず、4月には学級担任となるのだ。企業でいえば、新入社員が重要なプロジェクトリーダーを任されるようなものだ。ひところは企業も「即戦力」を叫んでいたが、最近は少しばかり声を潜めている気がする。新入社員に即戦力を求めるなど、しょせん無理な話だと理解しはじめたかもしれない。そこで、しばらくは「見習い」という形で経験を積ませる。そうでなければ「戦力」になどならないからだ。
ところが学校現場では、「即戦力」が求められている。戦前の教員不足のなかで「即戦力」を求めて師範学校が創られたのと似ている。そのために現在の大学、特に教育学部はどのようになってきているのか。
「大学では、教員免許を取るための授業内容が中心になってきています。それは学問性のある内容ではなく、指導技術です。簡単に言ってしまえば、学習指導要領の内容を、どう子どもたちに伝え、理解させるかの『技術』が重視されています」
即戦力の教員ではなく、学習指導要領を伝達する技術者を養成しているわけである。さらには、「教職センター」なる組織をつくる大学も急激に増えているという。教職に関する幅広い支援プログラムを実施する組織だが、元校長などを講師にして、学習指導要領にそった学習指導案づくりや「良い授業の型」など、学校実務を学ばせるのが目的だ。「型にあてはめた教員」づくりが行われているわけで、まさに師範学校そのものと言える。
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