リゾート列車「フラノラベンダーエクスプレス」で富良野へ
北海道「ラベンダーシーズン」を中心に運行するリゾート特急に乗車
■北海道のラベンダーシーズンを中心に運行するリゾート特急に乗車
JR北海道には、かつて何種類ものリゾート車両が存在した。「アルファコンチネンタルエクスプレス」に始まり、「フラノエクスプレス」「トマムサホロエクスプレス」などが走り回っていた。しかし、老朽化のため、どんどん廃車となり、2017年には「ニセコエクスプレス」が引退、2019年には「クリスタルエクスプレス トマム&サホロ」も引退し、残るは「ノースレインボーエクスプレス」のみとなった。もっとも、この車両も1992年にデビューしたものだから、そろそろ車齢は30年になろうとしている。後継車両も近々登場するようなので、引退が迫っていると言えるだろう。この機会に乗っておいてもいいのではないだろうか。
「ノースレインボーエクスプレス」は、レインボーという車両名のように、5両編成の車両ごとに窓下の色が異なる。札幌駅から富良野駅へ向かうときは、先頭から薄紫のラベンダー色、ライトブルー、ライトグリーン、オレンジ、それにピンクと続く。ここまでは5色だが、車体の白と車体の裾のダークグレーを合わせれば7色ということになるのだろうか?
いずれもハイデッカー車両で窓からの眺めは良い。中間の3号車のみ、2階建て構造で、1階はフリースぺースのラウンジとなっている。
低い屋根に覆われているため昼間でも薄暗い札幌駅に5両編成の「ノースレインボーエクスプレス」が入線してきた。ディーゼルカー特有のエンジン音が周囲に響き渡る。列車名は「フラノラベンダーエクスプレス」。観光シーズンに札幌駅と富良野駅との間を走る臨時のリゾート特急列車である。
ドアが開いたので、さっそく乗り込む。デッキの脇には荷物置場があり、何段かステップを上ると客室に入る。ハイデッカー車両ならではの構造だ。通路を挟んで2席ずつクロスシートが並んでいる。窓が天井近くまで広がっているので荷棚はない。開放的な明るい車内の反面、ちょっと使いづらい面もありそうだ。天井から、ところどころにモニターテレビが吊るされているのは航空機の機内みたいだ。何が映し出されるのか興味津々だったが、この日は休止状態で残念極まりない。
車内は富良野に向かう家族連れやグループ客が目に付く。座席の向きを変えて4人で談笑を始めた乗客もいて、発車前から早くも賑わっている。
定時に札幌駅を発車。複々線の線路をしばらく進み、千歳線と分れると、複線電化の函館本線を快走する。森の中を抜け、広々とした田園風景の中をひた走る。とは言え、車窓のハイライトは滝川駅から非電化単線の根室本線に入ってからであろう。というわけで、車内を少し散策してみることにした。
といっても、各号車にそれほど違いがあるわけではない。行ってみたかったのは、真ん中の3号車にあるラウンジだ。この車両だけがダブルデッキ構造で、2階席は、他の車両と同様の座席車。1階がフリースぺースのラウンジになっている。階段を数段降りると、ソファーが目に留まった。10人はたっぷり座れそうな広々としたものだ。小さなテーブルが3つほどあるので、軽食やドリンクを置くのに適している。先着順なので、グループ客で賑わっていると、あとからでは入りづらいかもしれない。窓から見える景色は、位置が低くなっているので、駅を通過するときは、ホームすれすれとなってしまい見慣れない情景が展開する。同行した妻と記念写真を撮ったりしてゆったり過ごしていたけれど、複数のグループがやってきて窮屈になってきたので、自分たちの席に戻った。
■北海道大観音、星の降る里、5595mの滝里トンネルを経て富良野へ
岩見沢に停車したあとは、同じ路線を走る「カムイ」「ライラック」などが停まる美唄、砂川は無視して滝川までノンストップだ。ここまで、ほぼ1時間。いよいよ、旅も後半となる。
滝川駅を発車すると、大きく右にカーブして函館本線と分れ、根室本線に入る。同じ本線と言っても、非電化単線のか細い線路は、どこか頼りなげだ。滝川の市街を抜けると、広々とした農村地域を走る。東滝川駅と赤平駅の間で渡った空知川が、茂尻駅付近から左手にちらりちらりと見えてくる。線路が高いところを走っているため、川と並走する国道を見下ろしながら進む。
市街地に入り、左手遠くに高さ88mもあるという白い北海道大観音が見えてくると芦別駅に停車する。この列車が根室本線内で停車する唯一の駅だ。かつては炭鉱で栄えた町だが、もはやその面影はない。澄んだ空気と山々に囲まれて周辺の光を遮断している立地条件から「星の降る里」として売り出しているようだが、駅は活気がなさそうだし、昼間では、その魅力は分からない。
芦別を発車すると、次第に山深くなってくる。空知川をダムで堰き止めてできた野花南(のかなん)湖の脇を通り、野花南といういかにも北海道らしい名前の小駅を通過すると長いトンネルに入る。5595mの滝里トンネルで根室本線では新狩勝トンネルに次ぐ2番目の長さだ。出ると、短いスノーシェルターに続いて島ノ下トンネルも続くので、延々と闇の中を走る感じだ。
すべて通り抜けて、空知川沿いに走り、やがて鉄橋で川を渡って、左手から富良野線が合流すると、列車の終点・富良野駅に滑り込んでいく。札幌駅を出てからほぼ2時間。鉄道旅行に慣れない観光客にとっても手ごろな列車旅である。
富良野駅は観光地の玄関らしく華やかな気分に満たされていた。多くの乗客は、改札口を出て、レンタカーや観光タクシーで目的地に向かう。ラベンダー畑で有名なファーム富田へは、JR富良野線の「ノロッコ号」に乗って、ラベンダー畑駅で降りるのが分かりやすく、渋滞の心配もない。いずれにせよ、富良野の休日を思いきり楽しみたいものである。