《失敗の本質》専門家にとって大事なのは結果、すなわち勝てていること【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑲】
命を守る講義⑲「新型コロナウイルスの真実」
◼︎専門家(プロ)にとっては結果、勝てているかが大事
船内では厚労省が指揮系統のトップになって、船の右側にDMAT、左側に厚労省が入り、さらに後ろ側にはDPAT(Disaster Psychiatric Assistance Team=災害派遣精神医療チーム)という精神科の専門家が入って対策を始めました。
この体制で検査を始めたのはいいものの、どんどん感染者が出てきてしまった。そこで「どうしよう」と思ったのでしょう。厚労省は日本環境感染学会を呼びました。ここに来てようやく、「感染症の専門家」がやって来たわけです。
日本環境感染学会から派遣されてきた専門家は、船内に入った3日間でいろんな対策をしたそうです。
DMATの人たちは感染症の専門家ではないので、PPE(防護服)の正しい着け方・脱ぎ方ができていないということで教育をしました。
それから、ウイルスがいる可能性があるレッドゾーンと、安全なグリーンゾーンを分けましょう、という提案もここで初めてされました。
だけど3日経って、日本環境感染学会の先生方は去ってしまい、「もう入らない」と言ったんです。
表向きの理由は、「各病院に患者が増えてきて、感染・管理の専門家も忙しくなったから」というもので、これは学会の理事長の名前で声明がありました。
それから、これはぼくの推測ですが、クルーズ船内の感染リスクが非常に高いことが分かり、怖くてもう入れないと思ったのでしょう。最初にFETPが入ってすぐに帰ったのも同じ理由だと思います。
その後は、国際医療福祉大学の専門家が入れ代わり立ち代わり入って、いろんな監視や現状把握をしていますが、「こうしなさい」と命令する指揮系統の権限が与えられなかったので、問題点は見つけていたでしょうが、抜本的な改善をすることができませんでした。
で、ここまでの、FETPが入って出て、日本環境感染学会が入って出て、国際医療福祉大学が入って出て、という状況を厚労省に言わせると、「専門家は毎日入っていた」となるわけです。
そもそも彼らは専門性も、果たすべき役割も全然違う。これは要するに「専門家がそこにいました」という役人の数合わせなんです。
医療従事者はよく知っていることですが、厚労省が何かを監査するときには、「形」を見ます。「マニュアルがあるか」とか「部屋があるか」とか「責任者が配置されているか」とか「1年に何回講習をやってるか」とか、そういうのを見るのが彼らの習いです。で、その数や形をクリアしていれば、「ああ、できていますね」と満足する。
対して我々感染症の専門家のいう「できている」は、厚労省のいう「できている」とは基準が全然違う。
我々の「できている」は「二次感染が起きていない」ことであり、「起こさないために必要な対策をやっている」ことであり、「適切な専門家が指揮系統を執っている」ことです。「できている」とはつまり、結果が出せていることです。
スポーツのチームでいえば、大事なのは勝てていることです。「ピッチャーがいます、バッターがいます、監督もいます」とか、そんなのは本質的な問題ではない。
「ちゃんと揃ってましたよ」というのが厚労省の言い方で、「試合はどうなったんですか」というのが我々の考え方なんです。見ているところが全然違うわけですね。
(「新型コロナウイルスの真実⑳ 」へつづく)