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【事実隠ぺいの代償】国益に反する厚労省のリスクコミュニケーション失敗《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㉙》

命を守る講義㉘「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してくれたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るための成果を出すために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる問題として私たちの「決断」の教訓となるべきお話しである。


■情報を隠した代償——国際的な信用失墜

【大本営発表「転進」のウソ】ソロモン諸島ガダルカナルの戦いで壊滅した第2師団(1942年10月25日)。翌43年より大本営発表では「転進」「玉砕」の言葉が頻出する。すなわち「敗北」「殲滅」を求めない失敗の本質が「記録」として残されている/写真:パブリック・ドメイン

 

 日本国内だけの問題であれば、「みんな一致団結して頑張ってるんだから、つべこべ言うな」といういつもの日本の論理でも納得してくれますよ。

 でも、世界は絶対、それでは許してくれない。みんなが頑張ってる? だから何? というのが世界の見方です。BBCやCNNといった海外メディアは、そう見ている。日本の論理なんて関係ない。

 だから、厚労省たちはリスクコミュニケーションに失敗したんです。

 ぼくがYouTubeで船内の状況を話したことに対して「コミュニケーションが失敗した」と批判する人がいましたけれど、それを言われるのは日本だけで、コミュニケーションに失敗してるのは、じつは厚労省のほうなんです。

 なぜなら、コミュニケーションで大事なことは、事実をちゃんと公表することだからです。情報公開と透明性が何より大切だからです。

 二次感染が拡がるダイヤモンド・プリンセス船内の状況は、海外ではインキュベーター、つまり卵を孵す装置にたとえられるほど悲惨なものでした。それなのに、厚労省は「ちゃんとやってる」という言い方をしてしまった、それこそが大失敗なんです。

 あれで、日本の信用はガタ落ちですよ。ちゃんとできてないときは、「ちゃんとできてない」と言うべきだったんです。

 大変な数の感染者を出しているイタリアやイランは、「ちゃんとやってる」なんてひと言も言いません。

 ちゃんとできてないこと自体は、ここでは問題ではない。新型コロナウイルスの問題は、もはや世界中で起きていますから、その意味ではちゃんとできてる国なんてひとつもないですよ。

 でも、ちゃんとできてないにもかかわらず、「ちゃんとできておりますよ」という日本の国内では通用する論法を、世界に向けてやっちゃったのが、厚労省の何よりの失敗ですよ。それこそが国益に反することです。

 政府が最も避けたかった、日本の信用をガタ落ちさせる事態をつくり出したのは、ぼくではなくて厚労省なんです。

次のページあれは本当なのか。事実を隠蔽してないか

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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