【車いすのダイバー】障害があるかないかは問題なく「好き」とか「やりたい」という気持ちが常識を越えたエネルギーを与えてくれる
寝たきりゼロの老後をすごす方法/その壱
生まれつき目が不自由、足も不自由という“二重の過酷な運命”を背負うことになった大学准教授(教員)、吉野由美子氏。
それでも常にポジティブに生きてこれたのは、たまたま出会ったスクーバダイビングによって、かけがいのない“自由な翼”を手に入れることができたからである。日本ではまだまだ立ち遅れている「障害者福祉」というアカデミックな研究に裏打ちされた彼女のコラムは、障害があっても前向きに生きていける、実りある“人生のヒント”を教えてくれるだろう。
■ダイビングでなければ得られない素敵な人生
ダイビング用の小さなボートから海に入ると、先程まで感じていたアルミ製のタンクの重さが消えて、無重力状態の快感が私を包み込む。
ゆっくり潜行しながら移動して行くと、目の前にギンガメアジの大きな群れが見えてきた。
「ワーすごい!」と、その群れに見とれながら、さらに下りて行くと、いきなり白い砂の上に大きな岩。と思ったら、その岩と見えた塊(かたまり)が動いているのだ。
よくよく見ると、とても大きなホウセキキントキの群れが流れに逆らって、ゆっくり移動しているところだった。
遠くのブルーの水の中に、白いサメの姿がシルエットのように見える。こんな風に大物が沢山出てくるポイントに相応(ふさわ)しく、ここは流れが速く、その流れが波の満ち引きのように、リズミカルに方向を変える。
私はその流れに乗って回ってくるギンガメアジの群れの中に入ってみたいと、流れに逆らって、群れの正面に回り込もうと無駄な努力を繰り返して楽しんでいた。
突然、私たちをガイドしてくれていたアメリカ人のインストラクターが私の手を掴(つか)んで、すごい力で私を群れの中に引っ張り込んでくれた。
ほんの少しの間、私たちはギンガメアジの仲間になった気分で、群れと一緒に泳ぐことができた。
ふと下を見ると、白い砂地の上に1mはあるキャベツサンゴが群生し、砂地はまるでスキー場のなだらかなスロープのように、深いブルーの水の中に続いていた。
「このままこの世界に吸い込まれてしまいたい」
「このまま、この世から消えてしまっても良いな」
こんな素晴らしいポイントに潜ると、ここが水の中であることも、気を抜くと危険であることも忘れてしまいそうで、ふと恐怖を覚えるほど。
これは、インドネシアとフィリピンの中間にあるマフィアリーフというポイントに潜った時の私の体験で、私の19年間のダイビング歴の中でもトップクラスの、素晴らしい瞬間であった。
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<略歴>吉野由美子 ブログ「吉野由美子の考えていること、していること」
1947年生まれ。 視力と歩行機能の重複障害者。先天性白内障で生後6ヶ月の時から、7回に分けて水晶体の摘出手術を受ける。足の障害は原因不明で3歳頃から大腿骨が内側に曲がる症状で、手術を3回受けて、68歳の時に骨粗鬆症から腰椎の圧迫骨折、現在は電動車椅子での生活。
東京教育大学附属盲学校(現:筑波大学附属視覚特別支援学校、以下:付属盲)の小学部から高等部を経て、日本福祉大学社会福祉学部を卒業。
名古屋ライトハウスあけの星声の図書館(現:名古屋盲人情報文化センター)で中途視覚障害者の相談支援業務を行ったのち、東京都の職員として11年間勤務。
その後、日本女子大学大学院を修了し、東京都立大学と高知女子大学で教鞭をとる。
2009年4月から視覚障害リハビリテーション協会の会長に就任する。2019年3月に会長を退任し、現在は視覚障害リハビリテーション協会の広報委員と高齢視覚リハ分科会代表を務める。
著書・執筆紹介
●日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」
●医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及
● 現代書棒 「季刊福祉労働」 139号から142号
2013年 「インターチェンジ」にロービジョンケアについてのコラム執筆 142号
● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」
1995年発行