【未熟な地面師】「前科あるでしょ?」「ちょっと失礼じゃないか!」その時、不動産屋が顔を真っ赤にして怒鳴った《「街金は見た!」》
【テツクル半生記⑨】あのころ、ぼくは、若かった。
◼︎ちょ!ちょっと‼失礼じゃないですか‼
契約書の署名するページを開くのは、不動産屋。Dさんは右手に持ったボールペンで署名するとき、手の下になぜか毎回クリアファイルをはさむ。左手で契約書を押さえることもしない。
ハンコ押すのは、うまく押せないという理由で全部不動産屋に任せます。
「Dさん、なんで署名するときクリアファイルはさんでるんですか?」
「え⁉ えーとですね……手汗がひどくて……」
「へーそうなんですね」
「あ、はい……」
不動産屋の顔がみるみる青ざめていきます。Dさんは今にも失神しそうな顔してます。
必要な書類すべてに署名と押印がすんだところで、ぼくはDさんに言いました。
「Dさん、前科あるでしょ」
「え⁉ え⁉ ないですよ⁉ なんでですか! なんでそう思うんですか!」
Dさん、急におしゃべりになります。額から大粒の汗が大量に流れはじめます。
「ちょ! ちょっと‼ 失礼じゃないですか‼」
顔面蒼白だった不動産屋の顔が真っ赤に変色して怒鳴ります。
「なんでそんなに怒るの? ありませんよって答えればいいだけじゃない?」
「こんな失礼な人に借りることはない! Dさん、帰りましょう!」
Dさんと不動産屋は、逃げるように部屋を出ていきました。ブローカーおじさんは状況が掴めておらず、
「テツクルさん、あんな失礼なこと言ったら怒って帰っちゃうに決まってるじゃないですか……」
「おい薄らハゲ、あれ見て何も思わなかったの? どう見ても地面師じゃねーか」
「え⁉ ホントに? どこが?」
「いいか? 契約書に指紋がつかないようにクリアファイルを敷いて署名してたんだよ。あと不動産屋がぜんぶハンコ押してたろ? 契約書触らないでハンコ押せないからだろうが。事件起こしたときに、ここに指紋残ってたら、そこから身バレするだろ」
「あ、そうか、そりゃそうだ、押せないわ」
「地面師とか連れてくるんじゃないよ」
「あ、はい……」
地面師たちは、グループで活動します。
舞台となる物件を見つける係、偽造書類を用意する係、所有者になりすます係、ニセの所有者を近くでサポートする係。
このほかに全体を仕切る大物が存在します。
素人がこれを見抜くことはむずかしいでしょう。
ぼくは毎回、債務者たちに不自然な様子がないか、探ってます。だって、投資家のお金を地面師にだまされて溶かしてしまったら、ぼくの街金王になる夢も溶けてなくなるから。
(『ぼく、街金やってます』より構成)
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KEYWORDS:
『ぼく、街金やってます: 悲しくもおかしい多重債務者の現実』
著者:テクツル
東京・池袋で街金を営む著者のもとには、さまざまな多重債務者がやってくる。そして返すあてもないまま借金を重ねていく。そんな彼らの、悲しくも爆笑せずにはいられないさまざまなエピソードを面白おかしく、しかし赤裸々に、街金ならではの視点で紹介。
ほかにも、ブローカー、詐欺師、悪徳業者、反社など、日常生活では出会うことのない人々が続々登場。今まであまり語られることのなかった街金コラムも満載。あなたの知らないお金の世界が見えてくる!