【激増する多重債務の現実】借りたものは返す——返せないとき「怖いおじさん」に頼んでも、決して「解決」されない《「街金は見た!」⑩》
【テツクル半生記⑩】あのころ、ぼくは、若かった。
多重債務者の現実。それを「見続け、貸し続け、回収する」街金の現実。
日頃見えてこない生活金融の現場。『ぼく、街金やってます』の著者であり、現役街金経営者のテツクル氏の実話をもとにバラ色の20代から暗黒の20代後半へと変わるお話しをする。
債務者と債権者の壮絶なドラマをお届けします。
■怖い人がやってきた!
利息の支払いが遅れだしたEさんから「相談に行きたい」と電話がありました。
Eさんは50代の経営者。あまり儲かってないせいなのか、それともそういう性格なのかわかりませんが、ぱっとしない人です。いろいろぱっとしないので、利息の支払いもぱっとしません。
「あのさ、いつになったら払ってくれんの?」
「すいません、もう少し待って……」
「あのね、毎日その返事なんだけど」
「はあ……」
「もうさ、家売って返済してよ。できないなら競売……」
「あ、ああ、あの、借り換えます……借り換えして返済します!」
「あのね、もう借り換えできるところなんてないよ。わかってるでしょ?」
ぼくがすでに査定額いっぱいまで貸してるわけですから、借り換えなんかできるわけありません。ぼくから借りたときも、あちこちの街金に散々断られたのを忘れたんでしょうか。
「いえ、なんとかします……」
「もう返済期日過ぎてるんだから、ちゃんと遅延損害金の20%乗せて返してくれるんだよね?」
「……はい……」
「じゃあ、肩代わりしてくれる人、早く連れてきてよ。1週間待ってあげるよ」
担保の不動産に抵当権を設定しているので、競売を申立てすれば回収は簡単です。でも、申立てしてから回収が終わるまで、半年以上かかりますし、できることなら借り換えしてもらったほうが効率はいいんです。
「もしもし、テツクルさんですか?」
「はいはい、借り換え先見つかった?」
「はい……それで相談がありまして……」
「別にいいけど、何の相談なの?」
「いろいろとありまして……ちょっと知り合いも一緒に行くんで……お願いします……」
こういうときの「知り合い」はだいたい3パターンです。
❶変なブローカー(「わたしが責任持って借り換え先を探します」とEさんの代わりに言い訳をして、結局何も進展していないパターン)、❷弁護士や親族(圧力をかけるつもりが、ぼくは適法な経済行為しかしていないので、状況は変わらずすぐ帰るパターン)、そして、❸反社の人です。
Eさんと一緒に登場した知り合いの人は、誰が見ても反社のおじさんでした。白髪混じりの角刈りに、ダボダボスーツ。もろ昭和の「ザ・ヤクザ」です。
おじさん、上着を脱いでハンガーに掛けます。安っぽい白のシャツから透ける刺青。
名刺も出さずにぼくの前にどっかと座り、両腕を広げてテーブルに手を置きます。小指が欠損しています。全身で反社アピールです。
「あのーEさんとどういう関係です?」
「関係なんてなんでもいいだろが」
「いや、名前も関係も教えてもらえなきゃ、何を話していいかわかんないですよ」
「Eさんに金貸してるんだろ? 利息高くねえか?」
「いや、法定金利ですよ?」
「オレがEさんの借金肩代わりしてやるから、利息まけてくれよ」
おじさんもその世界にいた人ですから、駆け引きは慣れた様子。脅すような口調ではなく、穏やかではありますが、押しの強い言葉尻。
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【マンガ版】『ぼく、街金やってます』第6話 ハマるな危険! 底なし沼とカモ男
『ぼく、街金やってます: 悲しくもおかしい多重債務者の現実』
著者:テクツル
東京・池袋で街金を営む著者のもとには、さまざまな多重債務者がやってくる。そして返すあてもないまま借金を重ねていく。そんな彼らの、悲しくも爆笑せずにはいられないさまざまなエピソードを面白おかしく、しかし赤裸々に、街金ならではの視点で紹介。
ほかにも、ブローカー、詐欺師、悪徳業者、反社など、日常生活では出会うことのない人々が続々登場。今まであまり語られることのなかった街金コラムも満載。あなたの知らないお金の世界が見えてくる!