【激増する多重債務の現実】借りたものは返す——返せないとき「怖いおじさん」に頼んでも、決して「解決」されない《「街金は見た!」⑩》
【テツクル半生記⑩】あのころ、ぼくは、若かった。
◼︎ロクオンデキマセンデシタ……
「いやーそれは無理すね」
「あんたがまけりゃ、すぐに肩代わりしてやるって言ってんだよ」
「いやいや、勘弁してくださいよ」
「オレがわざわざ話に来てんのに、おまえどんだけ大物なんだよ。あんまり無茶言ってると、金貸しできなくなっちゃうよ?」
Eさんはずっと下を向いたまま。
下手に出て言質取られても困るし、かといって激高させると収拾つかなくなる。
早く帰ってくれないかなと、のらりくらり話をかわしていると、ハンガーにかけてあったおじさんの上着から何か声が聞こえてきます。
「ロクオンデキマセンデシタ……ロクオンデキマセンデシタ……」
おじさんの上着の内ポケットに入れられていたスマホが発する機械的な音声
「あのー、上着がしゃべってますけど」
「あぁ⁉ む、ん……」
おじさんは慌ててポケットからスマホを取り出し、必死に音声を止めようとしますが、スマホはしゃべりつづけます。会話の中で、ぼくから言質を取り、後々使うつもりだったのでしょうか。でも、録音失敗です。
「すいません、もう帰ってもらえません? 無理なもんは無理なんで」
「おい、ちょっと、ま……」
手からすべり落ちたスマホを拾い、
「また来るからな」と捨てゼリフで帰るおじさんと、慌ててあとを追うEさん。
部屋を出ていったふたりが別れたあたりを見計らって、Eさんに電話しました。
「ちょっと、いまの誰?」
「す、すいません……知り合いに紹介されて。あの人に頼むと、借金を安くしてもらえるからって聞いて……」
「あのね、Eさん、あのおじさんだってタダで動いてくれるわけないんだからさ、おじさんにも手数料取られちゃうんだよ? Eさん、わかってる?」
「……それは……まあ……」
「もうさ、変な人に相談したりしないで、ちゃんと話しようよ。うちだって取立てするだけが仕事じゃないんだから。返済方法、一緒に考えようよ」
「はい……ありがとうございます……」
結局、Eさんはおじさんにしっかり手数料を取られ、自宅も売ることに。
ぼくは無事に回収できました。反社と付き合ったり、何かをお願いしても、いいことは何もありません。食いものにされるだけです。甘い話や優しい言葉をかけられても、最後は必ず牙をむいてきます。
街金の取立ては口うるさいですけど、決まった利息と遅延損害金以外は取られないんです。
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【マンガ版】『ぼく、街金やってます』第6話 ハマるな危険! 底なし沼とカモ男
『ぼく、街金やってます: 悲しくもおかしい多重債務者の現実』
著者:テクツル
東京・池袋で街金を営む著者のもとには、さまざまな多重債務者がやってくる。そして返すあてもないまま借金を重ねていく。そんな彼らの、悲しくも爆笑せずにはいられないさまざまなエピソードを面白おかしく、しかし赤裸々に、街金ならではの視点で紹介。
ほかにも、ブローカー、詐欺師、悪徳業者、反社など、日常生活では出会うことのない人々が続々登場。今まであまり語られることのなかった街金コラムも満載。あなたの知らないお金の世界が見えてくる!