ジャイアントキリングが起きる要因。格上チームに存在する心理
天皇杯で起きた下剋上を読む
同じ気持ちで試合に臨むこと
格下のチームとしては、何度かラフにでも押し込まれて、プロ選手の個人能力の怖さを知った方がバタつくのですが、慎重に攻めてきてくれると組織で対抗できてしまうので、そのうちに格上のスピード感にも慣れていきます。
守備面でも同様で、周りが格下と認識している相手に簡単にやられる姿は見せたくありません。その心理によって、一歩寄せることや厳しく対応にいくことを躊躇ってしまいます。寄せれば入れ替わる可能性があるからです。それは一瞬のことですが、その一瞬の隙が相手選手を自由にさせてしまう瞬間となり、その瞬間が大きな傷口となり失点につながってしまうのです。
選手は相手を舐めているというわけでもないのですが、なんとなく”やられたくない”という心理から、対応が雑になってしまうのです。
僕は、決勝戦や優勝が決まるような試合も、格下と呼ばれるようなチームとの試合も、同じ気持ちで挑むようにしている、と事あるごとに言ってきました。それがサッカーにおいて何より大事だと。
それは理想論のように聞こえるかもしれませんが、サッカーとはそういうスポーツなのだと思っています。
相手云々の前に、その試合が難しい試合になるか簡単な試合になるかは自分次第で決まる事であり、それは相手が強かろうと弱かろうと変わりません。だから、やるべき事はいつも同じ気持ちで試合に臨むことなのです。
「同じ気持ち」とは、攻撃時に慎重になり、守備時に雑になる、という無意識レベルの心理にも対応することを言います。
サッカーは謙虚で正直なスポーツです。本当に必要なのはその真逆で、攻撃時には思い切りよく、守備時には緻密にならなくてはいけません。それを失っているチームにはサッカーの神様は微笑んでくれません。
謙虚。
僕は謙虚という言葉が苦手です。謙虚とは人によって捉え方が違います。ある人にとっては謙虚な言動が違う人には謙虚でないと言われてしまったりします。僕自身も謙虚であろうと努めていますが、いつも正しいことをできているとは思っていません。
ただ、サッカー選手としてブレずにもってきたのは、どんな相手にも同じ気持ちで、自分のすべての全力をかけて勝つために戦う、ということでした。プロサッカーを少し離れた今ではあの頃の自分に「もう少し冷静になれ」と言いたくなる気持ちになったりもしますが、それが僕なりの自分への謙虚であり、相手への謙虚であり、そしてサッカーへの謙虚だったように思います。【岩政大樹の現役目線】