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たとえば非正規雇用の若者。「居場所」がない人が宗教を求める

坐禅で「悟り」は開けない その二

自由競争によって居場所がなくなる…

 大きな会社に勤めて、家庭的にも恵まれていような人がそう言う。「寄る辺がない」「何も頼りにならない」と訴えた初老の男性もいました。

 そうです。我々は今や、バブルの頃までは持っていたであろう、漠然とした「安心感」、人や社会に対する「信頼感」を失っているのです。

 最近私が出会った20歳代の人々は、ほとんどが非正規社員かアルバイトの人でした。半年後の職が保証されていなかった人も少なくありません。しかも、「非正規」であるのは、努力不足や能力不足、つまり「自己責任」で片づかないケースがたくさんあるのです。

 たとえば、幼児期の虐待などで、本来頼りなるべき家族との関係に致命的なダメージを負っていたら、人生のスタートラインに自ら立つ力さえ失われてしまうでしょう。

「自己決定」と「自己責任」が強調され、「自由競争」こそ社会の道理だという主張が声高になれば、重病の人、高齢の人、障害のある人、それを介護する人の立場は、次第に切り詰められ、追い詰められていきます。

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南 直哉

みなみ じきさい











1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務。1984年、曹洞宗で出家得度、同年、永平寺に入山。以後、約20年の修行生活を送る。

2003年に下山。現在、福井県霊泉寺住職、青森県恐山菩提寺院代。著書に『語る禅僧』(ちくま文庫)、『老師と少年』(新潮文庫)、『恐山―死者のいる場所』(新潮新書)、『善の根拠』(講談社現代新書)、『刺さる言葉―「恐山あれこれ日記」抄』他。


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