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引きこもりが「出家」を望む今。恐山菩提寺院代がとらえた時代の変化

坐禅で「悟り」は開けない その三

今とは違う「定年退職・余生型」と「頭でっかち・理想型」

 このような人たちは、これまで私が出会った「出家志願者」とタイプが違います。今まで多かったのは、「定年退職・余生型」と「頭でっかち・理想型」です。

 前者は要するに定年退職でアイデンティの危機に陥った者が、なんとなく関心のあった仏教に接近して、職業の代替や老後の「生きがい」を出家に求めるタイプです。後者は山ほど仏教書を読んだり坐禅したりしていて、自分の頭の中に理想の「仏教」を作り上げ、そこに飛び込もうとするタイプです。

 彼らは要するに「ユートピア」を求めるタイプで、「出家」というより「家出」に近い。それが証拠に、「出家」してから何をテーマに僧侶として生きるのかを、ほとんどまったく考えていません。
 したがって、「業界」の現実を具体的に説明すると、「それは自分には無理」と言い出すか、「そんなのは本当の仏教ではない」と怒り出して、沙汰やみになるのがほとんどでした。

 しかしながら、最近遭遇した出家希望者にしばしば見られるのは、「定年退職型」「頭でっかち型」志願者の“ユートピア願望”とは質の違う態度です。
もちろん、彼らも現状に不満で、どこかに行きたいという意味では「ユートピア」的願望を持つのでしょうが、私が感じるのは、「ユートピア」を求める不満の底に横たわる「居場所のなさ」「寄る辺なさ」、言い換えると、輪郭のはっきりしない「なんとなく不安な感じ」です。

「定年退職型」「頭でっかち型」には、妙な思い込みはあっても、この種の「居場所のなさ」や「なんとなく不安」に囚われている感じはなかったのです。
『「悟り」は開けない』ベスト新書より構成〉

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南 直哉

みなみ じきさい











1958年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、大手百貨店勤務。1984年、曹洞宗で出家得度、同年、永平寺に入山。以後、約20年の修行生活を送る。

2003年に下山。現在、福井県霊泉寺住職、青森県恐山菩提寺院代。著書に『語る禅僧』(ちくま文庫)、『老師と少年』(新潮文庫)、『恐山―死者のいる場所』(新潮新書)、『善の根拠』(講談社現代新書)、『刺さる言葉―「恐山あれこれ日記」抄』他。


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  • 2017.07.08