【再び塀の中へ】ヤクザ者は見栄を張ってナンボの世界、地獄の沙汰も金次第《懲役合計21年2カ月〜帯広刑務所Uターン編〜》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【再び塀の中へ】ヤクザ者は見栄を張ってナンボの世界、地獄の沙汰も金次第《懲役合計21年2カ月〜帯広刑務所Uターン編〜》

シャバとシャブと地獄の釜Vol.07

◼︎ヤクザものは見栄を張ってナンボの世界

 光陰矢の如し。月日の過ぎるのは早く、配役になってから、あっという間に1年数カ月が過ぎてい った。この頃には、兄弟分の出射とボクは、配食係の懲役たちに伝言を頼み、宗教教誨(きょうかい)のクラブ活動で会うようになっていた。

 ボクはよく、鉄筋工場の計算夫の席で、領置から下付した自分の財産である債権証書の領置品をと きどき閲覧しては、銀座の木村弁護士に依頼して処理していた。

 懲役にばかり来ていたボクは、取り立て可能な8000万ほどの債権類を「時効による消滅」で、 ただの紙屑にしてしまった。そんなことからボクは、計算夫の 「政ヤン」こと、高橋政之と口を利くようになり、仲が良かった。

 政ヤンは配食係をしていることもあって、よくボクと兄弟分の「ガテ(手紙)」を運んでくれた。

 この時期、ボクは二級になっていたことから、私物のサンダルの購入ができるようになっていたが 、宗教教誨のクラブ活動で出会う兄弟の出射は、とうの昔に二級になっているにもかかわらず、どうも官物のサンダルを履いているような感じだったので、もしかしたら……と思ったのだ。

 そんな思いから、ボクは政ヤンに兄弟分の出射が官物を履いているかどうかの確認を取ってくれる ように頼んでいた。もし、貧乏していて金がなくて購入ができないでいるなら、自分だけが私物のサンダルを履くわけにはいかなかったからだ。

 ヤクザ者は「見栄を張ってナンボ」の世界だから、懲役へ行くときはそれなりに「地獄の沙汰も金次第」で、恥をかかないように金を持って下獄していくものだ。しかし、中には現役ヤクザであっても、個々のいろいろな事情があって「ハイナシ(まるっきり金なし)」で務めに行かなくてはならな い奴もいる。そういう懲役は、心ない懲役たちから、「何だ、奴はヤクザのくせに、金もないのか」と、バカにされてしまうのが塀の中の常識であり、「あいつ、官物を履いているけど、本当に現役かよ」と陰口 を叩かれてしまうのだ。

 だから、兄弟の出射が、もしかしたらそんな辛い思いをしているのではない か、と思ったのだ。

 この当時、ボクは独居部屋にいた。そんなボクのところに、配食の時間帯、係用の白衣を着てマス クを着けた政ヤンが、「ハ~イ、お茶、入りま~す」と忙しく回って来ると、着けているマスクをずらし、

「サカハラさん、出射さんはやはり官物でした。事情を出射さんに説明したら、出射さんが『今度購入するので、兄弟には購入して履いてくれるように伝えて』と言っていました」と教えてくれた。

 安心し、ボクは1ヵ月遅れでサンダルを購入した。

 翌月の、1ヵ月に1回、ある宗教教誨のクラブ活動へ出席する日、迎えに来た看守によって独居部 屋から出されたボクは、居住区の中央の廊下へ出た。すると、すでに来ている数名の懲役に混じって 、ニコニコした出射が私物のサンダルを履いて立っていた。

 「あれ、もう来たの。早いね」

 ボクは巧く兄弟の横へ立つと、オヤジ(看守)の目を盗んで、唇を動かさないようにしてそっと言 った。

 「うん、特別購入だったから早かった。兄弟はまだ来ないの?」
 「うん、オヤジにズケ(受け)が悪いから、特別購入ができなかったんだ。定期の購入にしろと言われてね」

 結局、兄弟は気を遣ったボクよりも早く、ピカピカの新しいサンダルを、賞与金(務める刑期によ っても違うが、1ヵ月月600円くらいから徐々に等工が上がり、1年ほどで1500円ほどになる。
 それも真面目に務めて懲罰にかからなければの話だが……)で手に入れ、履いていたのだった。

『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)

【参考資料】
じんさん、大ヒット曲『異邦人』のシンガーソングライター久米小百合さんの(久保田早紀さん)の番組「本の旅」に出演いたしました。
https://www.youtube.com/watch?v=TSFueav0fgk&list=PLYamdtAmvO0aI-IuOqr107YxdCC1pfzKx&index=3

 

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 2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!

 新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。

 絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!

 「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。

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さかはら じん

さかはら じん

1954年生まれ(本名:坂原仁基)、魚座・O型。埼玉県本庄市生まれの東京育ち。幼年 期に母を亡くし、兄と二人の生活で極度の貧困のため小学校1カ月で中退。8歳で父親に 引き取られるも、10歳で継母と決裂。素行の悪さから教護院へ。17歳で傷害・窃盗事件を 起こし横浜・練馬鑑別所。20歳で渡米。ニューヨークのステーキハウスで修行。帰国後、 22歳で覚せい剤所持で逮捕。23歳で父親への積年の恨みから殺害を実行するが、失敗。 銃刀法、覚せい剤使用で中野・府中刑務所でデビューを飾る。28歳出所後、再び覚せい剤 使用で府中刑務所に逆戻り。29歳、本格的にヤクザ道へ突入。以後、府中・新潟・帯広・神戸・ 札幌刑務所の常連として累計20年の「監獄」暮らし。人生54年目、獄中で自分の人生と向き合う不思議な啓示を受け、出所後、キリスト教の教えと出逢う。回心なのか、自分の生き方を悔い改める体験を受ける。現在、ヤクザな生き方を離れ、建築現場の墨出し職人として働く。人は非常事態に弱い。でもボクはその非常事態の中で生き抜いてきた。

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  • さかはらじん
  • 2020.05.27