【ヤクザとしての覚悟】やられてもいいのだ、向かっていけば…その根性が男の価値であり認められる人格となる《「塀の中」懲役合計21年2カ月》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.09
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
今回は、「厄マチ切られた(悪口言われた)」じんさんが、男の価値を見せる番だと覚悟したものの・・・。しかし、今回の教訓は、舐められてはいけない、舐められ癖をつけてはいけない、また舐めてもいけない、ということかもしれません。
■オレがあんたの厄マチを切っている証拠はあるのかよ!
ボクはあるとき、三井のために、道内の「元」の懲役たちから立てられている南という地元の、元不良の、なかなか男気のある人間と話をして、三井を庇(かば)ったことがあった。地元や釧路の「元」たちか ら三井は厄マチを切られ(悪口、悪態をつかれ)、陰でいつもバカにされていたからだ。
昼飯になり、手洗いの最後になったボクが食堂に通じる手摺りの階段を上がりかけると、その前に 南がいたので、ボクは南を呼び止めて言った。
「南さん、知ってますよね、彼奴らが班長の三井さんの厄マチを切っていること。これ以上、三井さん を誹謗中傷するなら、自分は同じ関東の人間として三井さんの側に立ちますよ。南さんなら、話をわ かってくれると思って話をするんですけどね。それとなくやめるように言ってくれないですかね。何 か言いたいなら、本人の前で言えばいいんですよ」
実質、宣戦布告をしたようなものだった。
それから間もなく、三井は思うところがあったのか、午後の休憩時間に食堂で横浜の元不良の唐木に話があると言って、二人きりで席に座った。身体の大きい二人が座ると、そこだけ異様な空気が漂 い、ピーンと張り詰める。しかし、勢いがあったのは「元」の唐木の方だった。
三井が言った言葉に対して、
「じゃ、オレがあんたの厄マチを切っている証拠はあるのかよ。言いがかりをつけてんじゃねえよ !」
そう言って勢いよく立ち上がった唐木に、三井は先を制されて完全に呑まれていた。この言葉に対 して顔面蒼白になった三井は、たいした反論もできずに座っている。
もしかしたら、三井は話し合いですまそうとしたのかもしれなかった。たとえ、どんな小さなこと でも、ある程度腹を括り、全力を注いで行わなければならない。腹さえ括って、捨て身でいたなら醜態を晒すことはない。そうすれば、状況に応じてヤクザらしく反応できたのだ。
唐木の怒声が食堂中に響き渡った。すると周りでなり行きを静観していた唐木と仲良くしている道内の「元」の懲役たちが唐木を止めに入った。そこへ、担当部長が階段を駆け上ってきて、二人を食堂の端と端に引き離すと、すぐに警備隊が来て、二人を連行して行ってしまった。
三井が連れて行かれるとき、ボクは思った。ブルース・ウィリスみたいに暴れろとは言わないが、 せめて場面で相手に飛びかかるぐらいのヤクザらしい意気地を最後に見せてほしかったと。
やられてもいいのだ、向かっていけば……。
そのときに根性を見せられるかどうかで、自然と男の価値みたいなものが決まり、その人間の人格が認められていくのだ。だから、やられても向かっていく根性があれば、称賛を浴びることはなくても、名誉を回復することぐらいはできただろう。
「奴、意外と根性があるぜ」と言われて……。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。