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【感染予防・学力向上・教員の働き方改革】何のための「少人数学級」かを本気で議論すべき

第39回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「文科省vs財務省」よりも教育現場が大切

 その理由は、はっきりしているように思う。分散登校や分散授業による実質的な少人数学級では、規定の教育課程を消化するのは無理だからだ。翌年度に持ち越す部分があっても良いとしながらも、文科省は教育課程そのものを削減する気はない。全部を消化することが大前提なので、分散登校や分散授業の継続も念頭に無い。つまり、文科省としては、新型コロナ対策のための少人数学級は考えていないのだと感じる。

 それでも文科省が少人数学級にこだわるのは、予算獲得のためである。分散登校や分散授業による実質的な少人数学級を続けることは、現在の施設と教員数を大幅に増やさなくても不可能ではない。しかし、それでは文科省は納得しない。
 9月末には、来年度予算概算要求がスタートする。ここで大幅な予算アップを獲得するには、少人数学級を要求する現在の世論は文科省にとっては大きな追い風である。そのためにも、新型コロナ対策優先の実質的な少人数学級には消極的であっても、来年度以降からの段階的な導入には積極姿勢をみせているのだろう。

 ここに立ちはだかっているのが、財務省である。これまでも少人数学級の実現を文科省は要求してきたが、それを財務省は否定してきた。それどころか2015年には、公立小学校の1年生だけに2011年から導入されている「35人学級」の廃止まで財務省は求めている。廃止によって約86億円のコスト削減につながるというのが財務省の主張なのだ。
 その主張のために財務省は、「少人数学級を導入してもいじめや暴力、不登校に大きな変化はない」という数字を挙げている。これに対抗するために文科省が強調しているのが「学力の向上」である。何とも噛み合わない議論で、小学校1年生の35人学級は維持されているものの、全学年での少人数学級の実現にも進展はない。

■少人数学級の目的とは何なのか

 少人数学級と学力向上を結びつけるために文科省は、ホームページに山形県と秋田県の事例を紹介してもいる。

 山形県では2002年度から公立小中学校で33人以下の少人数学級を導入している。その成果についてホームページでは数字を挙げて「小学校への少人数学級編制導入後実施校学力(全国標準学力検査NRT)の平均が、導入前と比較して向上し、その後も高い水準を維持し続けた」と紹介している。
 さらに続けて、「追跡調査を続けた子どもたちは、平成20年度(中学3年生時)の全国学力・学習状況調査で、全国4位(国語)という結果であった」と誇らしげだ。
 秋田県といえば全国学力・学習状況調査で全国一として知られている。ここも2001年度から少人数学級を導入している。そのほかにも同県ではさまざまな学力向上対策がとられているが、文科省にしてみれば少人数学級導入の予算獲得のために大きな存在となっている。

 世論を味方にして、文科省は少人数学級の導入を推し進めてくるだろう。ただし、その目的が「学力の向上」だけにされてしまっていいのだろうか。学力向上がさらに目的化されれば、それに向かって教員はさらに突き進むことを強要されることになる。
 少人数学級は絶対に必要なことだが、それは子どもの成長のために必要なのであり、ただテストの成績を上げるために必要なのではない。
 教員が点数競争のためにさらに多忙とならないようにするためにも、少人数学級実現の動きが活発化する中で、その本当の目的を認識する必要がありそうだ。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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