【帯広刑務所のお務め】誰かが満期でシャバへ釈放されると、懲役たちの「人事」異動が起きる《懲役合計21年2カ月》
シャバとシャブと地獄の釜Vol.10
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
今回は、集まり参じて人は変われど、シャバに出る人、塀に入る人、仰ぐは同じ太陽と月。懲役の「お仕事」も釈放を通じて再編され、また、人間関係、秩序も変わるというお話。これって、学校や会社と変わらない世界。じんさん、
■誰かが満期になるとき懲役たちの人事異動も起きる
しばらくすると、ボクは作業中に左の手で持つハンマーで右の手の甲を強く打ってしまった。手がかなり腫れたので医務課に連れて行かれた。
これはあくまでも事故だった。それなのに、工場の担当や区長たちは自傷行為と見ていた。それが事実であれば取り調べになるが、ボクのは本当に事故だった。
なぜそう思われたのか。医務課まで、ボクの怪我を見に来た区長から話を聞いて、笑ってしまった。ボクが、班長になりそこなったことで工場に嫌気が差し、自分で自傷行為に及んだと思われていたのだ。
しかし、ボクの右手の甲には、過去に何回もハンマーで打った痕があったことから、担当や区長たちの思い過ごしだったことが、医務課の先生によって明らかになり、誤解が解けたのだ。
「サカハラには、悪いこと(班長にしなかったこと)をした」
邪気を回した区長が謝ると、ボクはすかさずそれを逆手に取った。
「区長、『ハツリ場(解体工事)』が暗くてよく見えないんですよ。お陰で視力も低下しているし……。だから手元が狂って手を打ちつけてしまうんです。違う工場にでも転業させてくれませんか」「おお、いいぞ。どこの工場へ行きたい?」
「五工場の木工辺りがいいですね」
区長は厄介払いができるとでも思ったのか、渡りに舟的な感じで、少し間を置いてから、
「わかった。しかし、10日間待て!」と、ボクの転業を約束してくれた。
この10日間というのは、木工場にいる兄弟の出射が満期で上がって行く(釈放される)日だった。
「サカハラ、このことは誰にも言うなよ」と、出て行くときに、区長は言った。
単調な刑務所の中では、懲役もこうやってたまに転業ができると、また新しく務めに行った気分となり、リフレッシュできるのだ。
◼︎塀の中のガテ(お手紙)コミュニケーション
ボクはさっそく、兄弟に「ガテ(手紙)」を書き、配食のときに計算夫の政ヤンへ、例のごとく切手も貼らずに郵便配達をしてもらった。
食事が終わると、兄弟からの「ガテ」を預かった政ヤンが、再びボクのいる独居部屋へ来て、その「ガテ」を「郵便~」と言いながら放り投げていった。
出射は、ボクが再び帯広刑務所へ来るまで、周りからは、天ぷらヤクザ(天ぷらは練った小麦粉をつけて揚げてしまうから、中に何が入っているかわからなくなる。つまり、「わからない」の意となり、訳のわからないヤクザ=似非(ニセ)ヤクザとなる)だと思われていたらしく、「兄弟が来てくれたお陰で、皆が信用してくれた」と言い、「今度木工場に来る兄弟のことは、工場の不良たちによろしく言ってあるので、安心してくれ」と言っていた。そして、「舎弟を三人つくったので、よろしく頼む」と結んであった。
10日後、ボクは出射と入れ替えに、木工場へ転業になって行った。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
【参考資料】
じんさん、大ヒット曲『異邦人』のシンガーソングライター久米小百合さんの(久保田早紀さん)の番組「本の旅」に出演いたしました。
https://www.youtube.com/watch?v=TSFueav0fgk&list=PLYamdtAmvO0aI-IuOqr107YxdCC1pfzKx&index=3
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。