【車いすのダイバー】見る力は視力だけで決まらない。見ようとする意欲と見せる方法によって見る可能性が限りなく広がる
寝たきりゼロの老後をすごす方法/その弐
大学准教授(教員)吉野由美子氏は、海の小物(小動物)を見たいという意欲と、見せてあげたいというガイドの協力と、デジタル機器の進歩などの技術の発展によって、見えにくさをカバーできることを発見した。この経験が、彼女に「ロービジョンケア」の普及を一生の仕事にしようという確信を与えた。唯一無二の存在感を武器に、吉野氏が「自分の経験と学んだ専門知識をもとにロービジョンケアの重要性」を、声も高々に提唱する。
■進化し続ける新しい世界と私のダイビング人生
タイのプーケットから北西へ約100キロ離れた「シミラン諸島」は、ダイバーにとって憧れの海域。わずか1年の半分、11月~5月の乾季にしか行くことができない、まさに秘境中の秘境!
2回に渡る「シミランクルーズ」は、私の26年のダイビング人生の区切りになる700本記念ができただけでなくて、とにかくコンディションも最高、私の好きなマンタや大物の群れもばんばん出てきて、とてもすばらしいクルージングでした。
これだけでも私はすごく感激したのですが、実はそれ以上に今回のクルーズで私を感激させたことがありました。
それは、いわゆる「小物(=海の生き物)」とか「マクロ」と、ダイバーたちが呼んでいる世界。矯正視力わずか0.2の「ロービジョン」の私には、絶対見ることができないと思っていたものを、たくさん見せていただいて、しかも私自身が撮影することができたということなのです。
ピントが合っていなかったり、決して上手な写真ではないけれど、私が自分で撮った写真をいくつか見てみて下さい。
ガーデンイールの一種である「スパゲッティーイール」はとても臆病で、接近したらとたんに気配を感じて砂に潜ってしまう。生の姿は私には滅多に見られない、まして写真に撮れるなど奇跡に近い。
巣穴から出ていたアンダマン海の固有種である「オーロラシュリンプボビー」は鈍感で、随分接近しても巣穴に隠れなかった。ハゼも個体によって性格が違うらしい。
中央の黄色いのがタツノオトシゴの子どもである「タイガーシーホース」。画面では大きく見えるかもしれないが、すごくか細かった。
どうして今回、私がこんなに海の生き物の世界を楽しむことができたのかと言えば、長い間、私に海の生き物の世界を諦めずに見せようとしてくれていた、ガイドの方々の「努力の賜物」です。
ただダイビング本数を重ねるだけでなく、私のダイビング人生もどんどん広がり、深化して、豊かになって行くんだなという確信を、今度のクルージングで得た気がします。
これから何に出会えて、またどんな風に進化していくのか、本当に楽しみです。
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著書・執筆紹介
●日本心理学会 「心理学ワールド60号」 2013年 特集「幸福感-次のステージ」
「見ようとする意欲と見る能力を格段に高めるタブレット PC の可能性」
●医学書院 「公衆衛生81巻5号-眼の健康とQOL」 2017年5月発行 視覚障害リハビリテーションの普及
● 現代書棒 「季刊福祉労働」 139号から142号
2013年 「インターチェンジ」にロービジョンケアについてのコラム執筆 142号
● 一橋出版 介護福祉ハンドブック17「視覚障害者の自立と援助」
1995年発行