【絶望から希望へ:神戸刑務所編】「オッサン、75歳にもなるんかいな」塀の中の押し寄せる後期高齢化問題《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.29
人は絶望からどう立ち直ることができるのか。
人は悪の道からどのように社会と折り合いをつけることができるのか。
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。実刑2年2カ月!
じんさん、帯広刑務所を出所したらと思いきや、またまた「ワル」をしでかして今度はヒガシからニシヘ! 今度は神戸刑務所に3年間お世話になります。
神戸刑務所で見えた押し寄せる「高齢化」問題がテーマです。
■塀の中の「後期高齢化」問題——老侠客の現実
ボクたちが号令のもと、「気をつけ!」の姿勢を取ると、「右向け、右!」の号令がかかり、続いて「その場、足踏み!」の号令がかかった。続いて担当部長の「イッチニ! イッチニ! イッチニ!」の掛け声に合わせて、ボクたち六人はその場で足踏みを始めたのだが、どうも足の合わない奴がいるらしく、
「誰や! そこの手と足を一緒になって上げている器用な奴は!」
と担当部長の声が飛んだ。
見ると、老侠客の蔵さんが、見事に右手と右足を一緒に上げているではないか。懲役30年以上のキャリアを持ち、刑務所のことなら何でも知っている〝生き字引〟のようなミスター懲役の蔵さんだったが、どうも、この勝手の違う神戸刑務所の雰囲気に圧倒されて、緊張のあまり、調子がおかしくなっていたようだった。
「お前や! お前! そこのオッサンや!」
そう言って、蔵さんの前に来ると、
「お前、ワシの言うてることがわからんのけ。お~ッ! なかなかええ根性しとるやないけ!」
担当部長が蔵さんの耳元で咆えた。
すると蔵さんはますますって、余計にわけのわからない動きをしてしまうはめとなる。
「お前、なかなかいい味出しているやないけ、ええ、こりゃ! お前、ところで歳ナンボや! オッサン、言うてみいや!」
担当部長がニヤニヤしながら吠えた。
蔵さんは口角に泡が溜まった口をフガフガさせ、今にも入れ歯が口から飛び出しそうにしたまま、
「はひ~、今年歳とって、はひ~、75歳ひになひます。はひ~、はひ~」
息も絶え絶えに答える。
「ほうか、オッサン、75歳にもなるんかいな。えろう歳食うてるやないけ!」
結局、蔵さんは一人だけ個別指導ということに相なってしまった。
そして足踏みをやめたボクたちの目の前で、蔵さんは「行進は懲役の基本や!」と言われ、足踏み行進の練習を散々繰り返させられた。
だが、蔵さんの足は、担当部長がどう指導しても直らなかった。しまいには匙を投げた担当部長から、
「お前、ナンボやっても、全然直らんやないけ! 他の者ができて、何でお前だけ、ようできんのや。いい加減にせいや。ワシ、もう諦めたわ。蔵ァ! お前そこで、ナンボでも好きなだけ自分勝手にそうしとったらええ。一日中そうやって滅茶苦茶な足踏みをしとけや! ワシ、もう諦めたわ」
そう言われ、蔵さんはまたもや担当台の前に一人残されて、行進の練習をやらされた。
さんざん行進をやってきている蔵さんは、当然のごとく酸欠状態になり、「はひ~」などとぎ声をあげ、もう滅茶苦茶な行進になっていた。
そんな蔵さんに呆れた担当部長は、「蔵、ワシ、今まで、ようけ懲役見てきたが、お前みたいな滅茶苦茶な行進をする懲役は見たことないわ! 初めてやァ!」と言いながらも、根気よく指導していた。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。