【絶望から希望へ:神戸刑務所編】「オッサン、75歳にもなるんかいな」塀の中の押し寄せる後期高齢化問題《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.29
◼︎関西人独特の〝噛まし〟のパフォーマンス
新入訓練工場の担当の役割は、懲役を工場へ配役させるまでの2週間の間に、きっちり基礎訓練を叩き込んで仕上げなければならなかった。それができなければ、担当として失格なのである。
蔵さんのように行進一つできない懲役は、配役になった先の工場で本人が苦労してしまう。その苦労をさせないための指導でもあった。
新入訓練考査の期間は、どの刑務所でも2週間と決まっている。この間、ボクは『嗚呼!!花の応援団』の漫画の世界のような新入訓練工場で、「ナニワの神戸刑務所」の凄さと、どこか温かみのある面白さを味わったのだった。
あるとき、工場の中央で基本動作の練習が終わったあと、「できが悪い」と言われて、ボクたちは「休め」の姿勢で立たされていた。
このときの蔵さんは、オヤジから天下御免の「免罪符」を勝ち取っていた。担当台前の特別席で時折、流れて落ちそうになる鼻水を、擦り切れたチリ紙で拭きながら、〝お日さん、西、西〟で、のんびりと作業をしていた。
すると、その前で、ギョロリと剥いた目で睨みつけた担当部長が、突然ボクたちに、「お前ら、舐めたらあかんど! なんでそんなことぐらい、ようできんのや! うおりゃー!」と吠え、傍にある机の脚を蹴飛ばした。机の脚はポキリと音を立てて折れ、傾いてしまった。
担当部長はそんなことにはお構いなしに、ボクたちに向かって、これでもかというほどの恐い顔をつくって、端から一人ひとりの顔を睨みつけた。
「オイ、経理夫! ハンマー持って来いや!すぐに持って来い!この机、修理せんかい!」
担当の声が飛ぶ。すると、経理夫が待ってましたとばかりに、すでに用意をしてあったハンマーと釘を手際よく持って駆けつけ、馴れた手つきで折れた机の脚に添え木を当てて、いつものことのように、手早くツギハギだらけの机の脚を修繕してしまった。
新入が来るたびに、担当は同じ机の脚を蹴飛ばして、新入の毒気を抜き取るための〝噛まし〟のパフォーマンスを演じていたのである。ボクはこんな面白いショートコントに、関西人の面目躍如たる気質を見せられた思いがした。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。