【絶望から希望へ:神戸刑務所編】塀の中は、人種の坩堝で「どこか壊れた」感じの人が多く集まっていた《さかはらじん懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.31
◼︎要注意人物にされたボク
ボクは紙折りの班の兵隊になり、一番前の役席になってしまった。この配置は、ボクの刑務所での身分帳で、懲罰ばかり受けて来ているから、「要注意人物」ということになっているかららしい。
部屋は8人の雑居部屋で、〝アカ落ち〟したばかりの懲役たちが集まる四級部屋だった。
ここには元国税局に勤めていて、今は不動産業を営んでいるという、身体を半分ほど棺桶に突っ込んでいるような姫路出身の小さな老人や、関西の某組織を名乗りながら、胸には関東の老舗のテキ屋の代紋の刺青を彫っていて、どこからともなく聞こえてくる幻聴と話をしている五十路の下り坂の自称「組」の奴とか、「ワシのシノギは一日に2万円しかならへんが、まあまあや」と、腕を組んで自慢げに胸を張る、自称ヤクザの、西成の30代のオニイちゃんといった面々がいた。
このオニイちゃんの一日2万円のシノギというのは、コンビニから2万円相当の品物を盗んできては、その品物をまた同じコンビニに持って行き、「買い戻せ」と言って難クセをつけて返品して金にするという手口だった。
2万円とはどんなシノギかと思って訊いてみたら、何のことはない。ただのドロボーだったのである。現役のヤクザだと胸を張って自慢していた西成のオニイちゃんには、ヤクザの倫理感というものが皆無であり、何とも呆れ果ててしまった。
「こら! ダボ! どこ見とるンや! おんどれや!」
朝の出役時間になると、あちこちから、担当たちの怒鳴り声が舎房の通路に響き渡る。そして出役になると、目の前にある印刷工場まで約20メートルほどを、キッチリ行進させられるのだ。
検身所は、まるで混雑した駅のホームのようだった。検身所に置いてある青いカゴは、毎朝懲役たちが出す洗濯物の下着で山になる。そして、なぜか必ず、カゴの中にはウンコで汚れたパンツが何枚も混じって放り込んであったりする。それも半端じゃない量のウンコがついていたりするのだ。誰のパンツかは、パンツについている囚人番号でわかるのに、平気なのである。
このようにして見ると、神戸刑務所はいろいろな人間が集まった〝坩堝(るつぼ)〟であり、いかに壊れた人間が多いかということがわかろうというものだ。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
- 1
- 2
KEYWORDS:
2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。