家庭にいながら非日常を味わえる“コスプレ”エキゾミュージック【美女ジャケ】
【第16回】美女ジャケはかく語りき 1950年代のアメリカを象徴するヴィーナスたち
■ソレっぽいというだけで、ついには宇宙にも進出
50年代のエキゾ・ミュージック・ブームは、インカ帝国の末裔なんていう歌手まで生みだした。ペルー出身のイマ・スマック。美女かどうかは微妙だが、極めてエキゾなコスプレイヤーでもあった。1950年のデビュー作「VOICE OF THE XTABAY」のジャケでのイマさんの衣裳は、これがほんとうに「インカ帝国風」なのか? まったくわからないが、そう言われればそうなのかも? と思ってしまう大衆心理に巧妙に食い込む雰囲気になっている。
イマ・スマックはマイナー・レーベルではなく、大手のCapitolレコードからデビューした。この連載で多くのジャケを紹介した、あの美女ジャケの宝庫のレコード会社から。
そしてデビュー4作目、「REGEND OF THE JIVARO」をリリース。アマゾン奥地の首狩り族とかをテーマに。釜ゆでに首を入れられる直前のインカ帝国の末裔! そんなまがい物を由緒正しきCapitolレコードがリリースするとは!
でも、これがヒットするほどにエキゾ・ブームは勢いを持っていたのだ。
イマ・スマックは声域の広い奇妙な声の歌手だが、歌唱力はまがい物ではない。だからいまだに人気があるが、彼女は最後までコスプレイヤーとして通した。しかも彼女が歌ったのは民族音楽ではない。アメリカナイズされたエキゾ・ミュージックであり、それは家庭にいながら安心して異郷をさまよえる音楽だったのだ。
エキゾ・ミュージックのジャケはいかようにもコスプレできたわけだが、極めつけのエキゾ=異郷は「宇宙」だった!
「スペース・エイジ・バチュラー」と先に端折って書いたが、正しくは「スペース・エイジ・バチュラー・パッド・ミュージック」(宇宙時代の独身者オタク音楽)と言う。なぜなら50年代後半から60年代にかけて、アメリカのちょっとオタクな独身者が最新のステレオで、ひとりこんなエキゾ系ムード・ミュージックを聴いていたからだ。
そしてアメリカナイズされた良質なエキゾ・ミュージックを量産していたのが、先にちょっと書いた作曲家のレス・バクスター。アフリカもの、南洋ものを手がけたバクスターは、宇宙さえもエキゾのひとつとして取り込んでしまった。
そのバクスターの1958年リリース作品が「SPACE ESCAPADE」。音楽も素晴らしいのだが、このジャケのコスプレ具合はどうだ!
男性の宇宙服は、1950年に製作されたSF映画「月世界征服」からパクッたもののようだ。そして頭にへんてこりんなものを付けた(おそらく宇宙人の)美女たち。カクテルで歓待とは、ラスベガスあたりのナイトクラブと宇宙は何が違うのか?って感じ。
そしてグリーンの宇宙服男性の掲げるグラスの向こうに映るものは……ロケット。でも、これはどう見ても勃起した男根のアナロジーでしょう! こうした仄めかしが、50年代サバービアの倦怠の向こう側にあった性的実存だったのだ。
それにしても男根の先っちょのカクテル・グラス……あぁ、めまいがしそうだ。
宇宙に目が向くと他のアーティストもこぞって宇宙ものレコードを作った。やはりエキゾ系の作曲家エスキベルの「OTHER WORLD OTHER SOUNDS」もその1枚。
このジャケもすでに連載第5回で取り上げたが、こうしてコスプレ観点から見ると、ああ、宇宙イメージのコスチュームってこうなるのね、と思わせる。
レオタード風のミニマリズム衣裳は、この時代から未来イメージと抱き合わせだったのだ。そして薄いヴェール。トランスペアレンシー(透過性)は、なんか未来的、宇宙的に思えたのだ。バクスターのレコードでもエスキベルのでも、宇宙の美女はスカートなんか穿かない。レオタードなのだ。