ノルマンディーの地で反撃に出るも、やむを得ず後退させられたドイツ装甲師団
「ロンメル親衛隊」、海岸に突破せよ! ~Dデー当日に実施された唯一のドイツ軍戦車部隊の反撃とIV号戦車~ 第10回(最終回)
「孤独な突進」を続けるドイツ装甲師団。はじめこそ順調に思われたが、現実はそう甘くなかった――イギリスの進出線に真正面からぶつかってしまったのである。
潰え去った「ロンメル親衛隊」の反撃
【前回はこちら:連合軍の大群を前に始まった、ドイツ軍の「孤独な突進」】
「パック(Pak=対戦車砲の意)! パック! 正面の灌木林前縁に複数の発砲炎!」
先頭を進んでいたIV号戦車の車長からの対戦車砲への警戒を促す送信が聞こえたと同時に、前衛の各車の車長たちがてんでばらばらに叫ぶ声が通信系に溢れた。
「気を付けろ! 敵は複数だ!」
「発砲炎しか見えない! 遠すぎてうまく狙えないぞ!」
「1発食った! 脱出する!」
「全車、来るな! 下がれ、下がれ!」
遮蔽物がほとんどないなだらかな登り斜面を進んでいた第22戦車連隊のIV号戦車群は突然、斜面の頂上に広がる低灌木の林に地の利を得て、巧妙に配置されたイギリス軍のM4DDシャーマン、M10ウルヴァリン駆逐戦車、そして17ポンドと6ポンドの両対戦車砲が矢継ぎ早に撃ち出す徹甲弾に射竦められてしまった。
そうこうしているうちにも、IV号戦車は次々と撃破されてゆく。砲塔上の車長キューポラと砲塔側面左右のハッチから、車内の火災で生じた黒煙とともにボロボロに焦げた軍服で這い出す砲塔乗員。だが車体の操縦手ハッチと無線手ハッチがともに閉じられたままなのは、二人とも持ち場で戦死を遂げてしまったからだろうか。
車内からやっと引きずり出した重傷を負った戦友を、軽傷の4人の乗員全員で抱えるように搬送する別の被弾車の乗員たち。周囲に着弾する徹甲弾が噴き上げる土煙をものともせず、撃破された愛車から飛び降りて、後続のIV号戦車に手振りと大声で前方に潜む危険を伝える車長。順調だったはずの突進が、一瞬のうちに惨状を呈した。
自分の連隊が打ちのめされつつある現実に、ブロニコフスキーは命令受領時に感じた嫌な予感が当たったことを嘆いた。だが、何としても戦況を打開せねばならない。第192装甲擲弾兵連隊第1大隊は海岸線に達しているかも知れず、だとしたら、カメラード(ドイツ語で戦友の意)たちは戦車の来援を心待ちにしているはずだ。
しかし、イギリス軍の進出線は堅固だった。続出する被害にブロニコフスキーはとうとう海岸への突進を諦め、防勢へと転じざるを得なかった。この日だけで第22戦車連隊はIV号戦車10数両を失った(資料によって13両から19両とばらつきあり)。一方、イギリス軍の損害はM10駆逐戦車1両のみ。
かくして第22戦車連隊の突進は阻止され、第192装甲擲弾兵連隊第1大隊は寡兵よくねばったものの、海岸部でイギリス軍とカナダ軍に包囲されて孤立しかねない状況となったためやむを得ず後退。こうして、Dデー当日に唯一実施されたドイツ装甲師団による反撃は、儚くも潰え去った。
しかし、奇しくもロンメルが守りに就いたノルマンディーの地で、かつて北アフリカにおいて彼の指揮下で奮戦したものの壊滅し再興成った「ロンメル親衛隊」が再び活躍したことは、まさに運命の暗合といえるだろう。(終)