防衛出動が発令されない限り、どんな事態が起きても「平時」
日本の軍事力 自衛隊を阻むものの正体③
演習・訓練では世界一強い自衛隊!? 自衛隊のレベルは世界的だといわれます。そんな自衛隊の能力が実際には活用できないよう、法律や社会的な制約が様々に課せられていることは公然たる事実です。アメリカの原子力潜水艦にディーゼルの潜水艦で18勝1敗1分をした元エース潜水艦長・中村秀樹が『日本の軍事力 自衛隊の本当の実力』を上梓。同書より優秀な自衛隊が、国防と言う本来の使命を果たせない、そんな現実に切り込む。
自衛隊を縛るもの
防衛出動が下令されていない平時においては、侵略側の攻撃に反撃したり、国民を守るために戦闘に入れば、自衛官は罪人になる覚悟が要ります。
海上警備行動や、治安出動、領空侵犯に対する措置なども、平時の行動であって、交戦、すなわち武力行使は認められていません。縛りのきつい武器の使用のみであり、加害行動は刑法の対象になることを改めて強調しておきます。
適用される刑法は個人を対象にしているから、指揮官の命令を受けて戦闘に従事した部下も、殺人の実行犯となるでしょう。主犯が指揮官で、部下は共犯というわけです。命を賭けて国民を守ろうと戦っても、罪人としての汚名を着せられるのです。
これは、自衛隊の武力行使は違法行為、という前提があるためです。平時にはゆるされていない武力行使(武器使用でも)は犯罪で、刑法犯になるという前提です。
日常の社会を対象にした刑法では、人間に対する加害行為や、モノを破壊することは犯罪です。しかしそれを外国軍隊を相手に、「国家としての自衛権を行使する事態」にも適用するから無理があるのです。
それでも国民を守らなければならない事態に遭遇したら、どうすればよいか。残された道は、職権としてではなく私人として武器を使用し、正当防衛として違法性が阻却されるという方法です。それのみが我が国の商船や航空機を守り、かつ武器を使用した自衛官が国内法上の刑事責任を免れる唯一の方法でしょう。しかしこれも、刑法の範囲を超えれば過剰防衛となり、殺人や傷害罪で処罰されるのです。
防衛出動が発令されない限り、どんな事態が起きても「平時」です。その「平時」に、自衛隊は何の権限も持っていないのです。このように信じ難い状態にある「軍隊」が自衛隊なのであります。
(『日本の軍事力』より構成)