【第3波突入】世界的に見たら、じつは医師の数は女性のほうが多い事実——日本におけるシステムの不備【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊴】
命を守る講義㊴「新型コロナウイルスの真実」
なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。
■日本の「働きすぎ」問題
実際にコロナかどうかに限らず風邪をひいたらすぐに休むことが大切です。
自分がまず休むこと、そして家族や同僚が風邪をひいたらちゃんと休ませてあげることが大切ですが、そのためには、「休むことができるシステム」を整備しないといけない。
それは工夫すれば容易にできることなんですが、日本の社会では、工夫することそのものが悪とされることがあります。
東京医科大学での女性差別問題(2018年8月)なんかが典型ですよね。
「男性医師がこんなに頑張って仕事をしているのに、女性がそこに入ってやれるわけがない」といって、差別を起こすわけです。
でも世界的に見たら、じつは医師の数は女性のほうが多いのです。ということは、女性の医師のほうが多い国が圧倒的に多い。にもかかわらず日本では男性医師じゃないとやっていけないというのは、男女の能力の問題というより、単なるシステムの不備じゃないかって考えたほうがより合理的ですよ。
「男の医者は夜中まで頑張ってる」みたいな偉そうなことを言ってるけど、それは裏返すと、それって家で何もやってないって意味ですよね。単に奥さんにワンオペの家事を押し付けてるだけでしょ。
そういうマインドが当たり前のシステムだから、日本の医療ってものすごく無駄が多いのです。
例えば、外来患者がとても多い。不必要なまでに多い。今でこそ、コロナ問題で不要な診療を避けましょうというようになって外来の患者数がすごく減っていますが、ひっくり返せばそれだけの減らせる余地があるほど、これまでは無駄が多かったんです。
必要ないのに外来の患者さんがどんどん入ってくる。「うちの外来は夜の10時までやってるんだ」って偉そうに言うお医者さんがよくいるんですが、つまりは看護師さんや事務の人もずっと付き合ってなきゃいけないってことですよね。
そんな時間まで続けないと外来が回らないとすると、オペレーションがそもそも間違ってるんじゃないか、という発想がないわけです。
本当は、患者さんを半分に減らして夕方の5時に終われるようなアポイントメントの取り方をするのが正しいやり方なんです。
アメリカの病院には「リフィル(=再び満たす、補充)」というシステムがあります。これは何かというと、例えば高血圧の症状があるところで安定している患者さんは、同じ薬をずっと飲み続けるわけですが、日本ではその薬を処方してもらうためだけに外来に来るんですね。アメリカでは「それって無駄じゃん」という話になって、薬局に行くと同じ処方箋で何回も同じ薬をくれるんです。
同じ薬を何年も飲み続けている患者さんなんてたくさんいるんですが、日本だと薬をもらうにも、必ず外来に行って医者に診察を受けて処方箋をもらわないと、薬をもらえない。これがアメリカだと、1回薬をもらって、症状が安定していれば同じ薬を何回でも薬局でもらえる。その都度病院に行かなくていいのです。
(「新型コロナウイルスの真実㊵」へつづく)
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