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【第3波を乗り越える】「病院の待ち時間」と「満員電車」の共通点——思考停止を生む共犯関係《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊵》

命を守る講義㊵「新型コロナウイルスの真実」


 なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
 なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
 この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。


■病院の待ち時間問題

 話は変わりますが、インフルエンザの検査をしようとした医師がコロナウイルスに感染したことがきっかけになって、インフルエンザの検査をやめ、症状で判断するように日本医師会が指示したことを前に紹介しましたよね。

 これは非常に大きなパラダイムシフトなんですが、今でも患者さんはインフルエンザだと思ったら検査するもんだって思い込んでますよね。

 さらに、会社や学校によっては「証明書を出せ」とか言ってくる。そんなこと言っても、「インフルエンザではない証明」のほうはできっこないんです。検査が陰性でもインフルエンザかもしれないのだから。

 「インフルエンザ陰性の証明書とか意味ない、あれは単に医者の書類仕事を増やしてるだけだ」ということが広く理解されるようになり、「というか、そもそも鼻水を出してるだけの人が病院へ行くのは意味ないんじゃない」と理解してもらえるところまでいければ、世界一多い日本の外来の患者さんはもっと減って、医者はもっと他の仕事ができるようになるのに。

 よく「3時間待ちの3分診療」みたいな言葉で医者の診察が非難されますが、あれはたしかに半分は医者のせいですけど、半分は患者さんのせいですよ。患者さんが殺到するから3時間待ちになるのであって、来なくていい人が来なければ待ち時間は減るんだから。

 あと「無駄な検査を減らす」など病院側にできることもありますが、「なんで俺がこんなに待たされるんだ」と言ってる、その患者さんが他の人の待ち時間の一部になっていることにも想像を及ばせたほうがいい。

 だから待ち時間問題は、医者と患者の共犯がもたらした問題なんです。患者さんの「不安を解消したい」という欲望が、待ち時間という患者さんの苦労の原因になっているのです。

 ちなみに、神戸大学病院は完全予約制にしていて、アポなしの受診は予約診察が全て終わるまで待ってもらっています。緊急事態は別ですけれどね。

 11時に予約を取ってる人は11時に診るのが常識です。11時の予約なのに15時まで待たされるなんて、例えば美容院でそんなことをされたら二度と行きたくないですよね。世の中で、予約時間を破って待たせても平気な顔をしているのは病院だけですよ。

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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