【第3波を乗り越える】「ギリギリまで頑張る」リスクから「みんな違うことを認め、休む」安全へ! 余裕のある組織づくりへ《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊶》 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【第3波を乗り越える】「ギリギリまで頑張る」リスクから「みんな違うことを認め、休む」安全へ! 余裕のある組織づくりへ《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊶》

命を守る講義㊶「新型コロナウイルスの真実」

◼︎「みんな同じ」の幻想を捨てる

 かく言うぼく自身、若い頃はすごく昔気質で、「一年365日病院に居続けるのが正しい医者だ」と思っていました。当時は、診療時間外の当直の後でそのまま外来を担当していたりしました。

 ぼくが考え方を変えたのは、血中のカリウム濃度が高い患者さんを診たときの失敗がきっかけです。

 カリウムが高すぎると、心臓が止まって死んでしまうんですね。だからその患者さんには、本来ならカリウムを下げる薬を出さないといけない。

 ところが全然寝てなくて意識が朦朧としていたぼくは「あ、カリウムが高い患者さんがいる」みたいに思って、あろうことかカリウムを処方してしまったんですよ。カリウムの錠剤を飲むと、当たり前ですが血中のカリウム濃度はもっと高くなります。

 ふっ、と気がついて、「あれ、今なんか俺、変なことをしなかったか」とカルテを見直したら、「カリウムが高い。だからカリウムを処方」みたいなことが書いてあるわけです。あ、やばいと思って、すぐに患者さんに戻ってきてもらって謝って、今度はちゃんとカリウムを下げる薬を出しました。

 正常な精神の持ち主だったら「カリウムが高いからカリウム」なんてありえない。こんなの小学生だって間違えませんよ。

 でも、一晩寝てない医者の脳って、酔っぱらいの脳と同じぐらいの機能しかない、という調査結果があるんですね。要は当時のぼくは酔っぱらってるのと同じような状態で外来をやっていたわけで、とても危険です。

 このことがきっかけになって、ぼくは態度を入れ替えました。

 普通「態度を入れ替える」というと「もっと真面目に働く」ことを意味しますけど、逆に「もっと休まなきゃだめだ」と態度を入れ替えたんです。休養を取って、睡眠を取って、精神的に健全な状況じゃないとまともに働けないことが、そのときにやっと分かったんです。

 だから現在、ぼくのチームでは必ず余裕を持つことにしています。そして「みんなが同じであるという幻想を、まず捨てるべきだ」と言い続けていて、ハンデキャップがあるなしにかかわらず、どんな人でも一応採用する形にしています。

 世の中にはいろんな人がいますよね。子育て中だとか、介護中だとか、持病を持っていて長時間は働けないとか。そういうのは全部認める。その上で各人のベストを尽くせばいいことにしているんです。

 最初のうちは大変でした。独身の若い男性の医師なんかはまだ分かっていないから、「あの人は、子供が病気だとかいって今日も仕事を休んでる」みたいなことを言うわけですよ。だけど、病院で一人で働いてるのと、子供が喘息の発作とかを起こして、寝不足のまま夜中に救急病院に連れてって看病するのとどっちが辛いかっていったら、後者のほうが辛いに決まってますよね。

 このカルチャーを変えるのに何年もかかりましたけど、今は「多様性を認める」「みんなが同じであるという幻想を捨てる」「みんなが違っていることを認めて、初めて全員が楽になれる」という方針で、ちゃんとやれています。

 これができないと、とにかくギリギリまで頑張るという発想になるし、疲れてイライラするから議論ができないし、まともな改善もできない。そして同じ失敗がずっと続くようになるわけです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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