【第3波を乗り越える】「正しいか、間違いか」よりも「みんなが同調しているか」で物事を決めてしまう日本の特徴【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊷】
命を守る講義㊷「新型コロナウイルスの真実」
なぜ、日本の組織では、正しい判断は難しいのか。
なぜ、専門家にとって課題との戦いに勝たねばならないのか。
この問いを身をもって示してたのが、本年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し、現場の組織的問題を感染症専門医の立場から分析した岩田健太郎神戸大学教授である。氏の著作『新型コロナウイルスの真実』から、命を守るために組織は何をやるべきかについて批判的に議論していただくこととなった。リアルタイムで繰り広げられた日本の組織論的《失敗の本質》はどこに散見されたのか。敗戦から75年経った現在まで連なる教訓となるべきお話しである。
■パニックに乗っかる日本
感染症パニックが起こったとき、情報の出し方というのはすごく難しい問題です。
「このライブハウスで感染者が出た」みたいな情報は、患者さんを診るためにも医療従事者には公開したほうがいいと思いますが、一般に公開することで利益がどれくらいあるのかはちゃんと見積もっておいたほうがいい。少なくとも、感染者の自宅の住所なんかは出さないほうがいいと思います。家の周りにリスクはほとんどありませんから。
これは新型コロナウイルスに限った話ではなく、感染症が流行したときに毎回起こる問題で、本当に悩ましいです。海外でもいつも起こっている問題です。アメリカなんかもすぐにヒステリーを起こしますからね。エボラのときは、感染者が乗った地下鉄の電車が何番で、みたいな情報を全部晒して大パニックになりました。
アメリカ社会はとてもパニックに弱くて、今回のコロナでは、マスクやトイレットペーパーの買い占めが、案の定アメリカでも起こりました。あんなばかばかしいことが起こるのは日本だけかと思ったら、やっぱりアメリカもやりましたね。
ぼくは2001年にアメリカにいたんですが、そのときにも、まあパニックに弱い国だと思いましたね。あの年は9・11のアメリカ同時多発テロ事件が起きて、さらに炭疽菌によるテロ事件が起きました。「イラクに大量破壊兵器が」みたいな根拠のない話がメディアに載っかって、ジョージ・W・ブッシュの支持率が90%以上になって、「とにかくイラクに戦争を仕掛けよう」ってみんなが言ってましたよ。
「大量破壊兵器なんて根拠ないじゃん」と指摘すると、「何言ってんだ、戦争しかないだろ。イラクは悪いんだから」みたいな感じで、みんなパニックになっていた。
結局「大量破壊兵器なんか見つかりませんでした」という話になった後で、「ブッシュが悪かった」とか「CIAも悪かった」みたいなことをしたり顔で言い出すわけですよ。国民みんな支持してたじゃん、自分たちもパニクってたのに、よう言うわ、とぼくは思ってましたけど。
アメリカは、一度パニックになったときの同調圧力はものすごく強いし、しかもそのときには平気で差別や迫害が起きます。2001年のときはイスラム圏の人に対してものすごい差別感情が起きて、それこそ一緒のバスに乗ったりしたら「炭疽菌をばら撒くんじゃないか」などと言われて、ひどかったですよ。アメリカは人種差別を平気でやる社会ですし、だからこそ、差別対策をしっかりしているわけですね。
アメリカだけでなくてヨーロッパも同様です。今回のコロナでは、ヨーロッパでも中国人とかが相当差別されて大変だったり、アフリカのケニアでも中国人が迫害を受けているとBBCで報道されていました。パニックに弱いのは日本だけじゃなくて、全世界どこの国もそうなんです。
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