西浦批判の繰り返しこそ「全体主義への大衆煽動」【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第3回】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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西浦批判の繰り返しこそ「全体主義への大衆煽動」【中野剛志×佐藤健志×適菜収:第3回】

「専門家会議」の功績を貶めた学者・言論人

■正義感は偽善、誠実は欺瞞

佐藤:エドマンド・バークは『フランス革命の省察』でこう言っています。イギリスの祖先たちは、重大な決断を迫られたときほど次の原則を重んじた。(1)状況をよく見きわめ、軽率に行動しないこと。(2)不測の事態に備え、万全の用意をしておくこと。(3)臆病なぐらい慎重であること。これこそ、真の保守的態度というものです。
 中野さんのおっしゃるとおり、結局のところ、わが国に保守は根づいていない。行動制限緩和論が少なくとも一定の支持を得るゆえんですが、いたずらに反発するのにも賛成できませんね。自分の評価しない言説が世に広まるのは許せないとなったら、それはそれで現実が見えなくなる。まずは状況をよく見きわめるのがいいでしょう。

中野:緊急事態宣言が解除された後、大阪府の吉村知事に呼ばれた中野貴志・阪大教授と宮沢孝幸・京大准教授が、専門家会議の批判をしたことがあった。そのときに中野教授がK値とかいうものを出して、その数字を示して、緊急事態宣言は意味がなかったと言った。藤井氏はそれを見て、涙ちょちょ切れんばかりに喜んで賛同し、「理性的な対策を進めましょう」などとtwitterで言い出した(https://twitter.com/sf_satoshifujii/status/12715535600195432448)。でも、当の中野教授は、緊急事態宣言は意味がなかったけど、クラスター対策は効果があったと言っているんですよ(https://www.dailyshincho.jp/article/200200/007002006003/?all=1)。ところが藤井氏は、中野教授と違って、クラスター対策は絶対破綻すると言っていた(http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/resilience/documents/corona_slides_4.pdf)。クラスター対策は「理性的な対策」なのか、そうでないのか。どっちなんですか?。

適菜:専門家会議を批判できればなんでもいいと。

中野:同じような話がまだある。藤井氏は有効な対策として、「徹底的な換気」「3密の中でも特に「換気」を集中徹底」を挙げていた(https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20020000423/)。ところが、上久保靖彦という京大特定教授が、「3密も換気も非科学的だ」と言って専門家会議を批判したのにも藤井氏は飛びついて、「素晴らしいお言葉」とtwitterで絶賛。その直後に、本人もまずいと思ったのか、過剰な換気は不要だとツイートしています(https://twitter.com/sf_satoshifujii/status/12883170069994258432)。しかし、これまで「徹底的な換気」「換気の集中徹底」と口酸っぱくして言ってた人に、急に「過剰な換気は不要」って言われても、こっちとしては、どうしていいか分からない。「徹底的」は必要だが、「過剰」は不要って、そんな言葉遊びしている場合かと。じゃあ、「適度な換気」でいいけれど、「適度な換気」は科学的なのか、非科学的なのか、どっちなんだ?

佐藤:魂の叫びは、論理とはまた違いますからね。

適菜:藤井氏は5月にはソーシャルディスタンスは「感染防止の観点から『絶対必要』とは必ずしも言えないものなのです」(https://the-criterion.jp/mail-magazine/m20020000519/)と言っていたのに、つい先日は「ソーシャルディスタンスは、確かに感染抑止効果は絶大」(https://medical.jiji.com/topics/1744?page=1)と言っている。「ソーシャルディスタンスは、感染抑止効果は絶大だが過剰なのであって、絶対必要とはいえない(マスクで十分)」と言っているので、必ずしも矛盾ではないですが。

佐藤:バーク流の発想、つまり保守主義の立場を取るかぎり、「『絶対必要』とは必ずしも言えない」ぐらいの対策まで取っておくのが賢明です。感染抑止効果が絶大であることは、藤井さんも認めているんですから。
 藤井さんの名誉のために言っておきますが、彼はある意味、誠実なんですよ。「政府がロクな財政出動をしない」という前提条件のもと、感染被害と経済被害の双方をできるだけ抑えこむ「落としどころ」を懸命にさぐろうとしている。
 ところが当の前提条件のもとでは、落としどころなど存在しません。無理に落とし込もうとしたら、かえって感染被害と経済被害の双方が大きくなる恐れが強い。国民すべてが徹底して理性的で、完璧に行動変容できるのならともかく、これは期待するほうが間違いです。
 第2回でも出た論点ですが、答えの出るはずがない設問に、どうにか答えを出そうとすると、やればやるほど言動のツジツマが合わなくなる。つまり整合性のなさも、誠実さの表れなのです。みごとに裏目に出ているだけの話。
 では、なぜ裏目に出るのか? 「大変だ、どうにかしなければ!」という危機感や使命感で、魂が叫んでいるからです。魂が死んでも困りますが、魂が叫びっぱなしもまずいのですよ。

中野:なるほど、あの整合性のなさは、誠実さの表れですか。人間、誠実なら正しいってわけじゃないってことですね。しかし、佐藤さんがさっき引用した福田恆存の言葉は、もっと辛辣です。「人間の心の動きは微妙なもので、偽善を追及する正義感が偽善になることが往々にしてあります」。
 誠実さにせよ、正義感にせよ、それを振りかざす者には、それが他人であれ自分であれ、気を付けろということか。う~ん、深いですね……。

佐藤:福田さんはシェイクスピアの翻訳でも知られますが、『マクベス』の台詞にならえば「正義感は偽善、誠実は欺瞞」。このパラドックスが理解できない単純な精神の持ち主を「ガキ」と呼びます。で、単純であるがゆえに、ガキはあらゆる行動制限を「不当な強制」と感じるわけです。

(第4回へ続く)

 

中野 剛志
なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。最新刊は『日本経済学新論』(ちくま新書)は好評。KKベストセラーズ刊行の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編』』は重版10刷に!『全国民が読んだから歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』と合わせて10万部。


佐藤 健志
さとう けんじ

評論家

1966年東京都生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒。1989年、戯曲「ブロークン・ジャパニーズ」で文化庁舞台芸術創作奨励特別賞受賞。主著に『右の売国、左の亡国』『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』『僕たちは戦後史を知らない』『夢見られた近代』『バラバラ殺人の文明論』『震災ゴジラ! 』『本格保守宣言』『チングー・韓国の友人』など。共著に『国家のツジツマ』『対論「炎上」日本のメカニズム』、訳書に『〈新訳〉フランス革命の省察』、『コモン・センス完全版』がある。ラジオのコメンテーターはじめ、各種メディアでも活躍。2009年~2011年の「Soundtrax INTERZONE」(インターFM)では、構成・選曲・DJの三役を務めた。現在『平和主義は貧困への道。あるいは爽快な末路』(KKベストセラーズ)がロングセラーに。


適菜収
てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、清水忠史との共著『日本共産党政権奪取の条件』(KKベストセラーズ)など著書40冊以上。現在最新刊『国賊論~安倍晋三と仲間たち』(KKベストセラーズ)が重版出来。そのごも売行き好調。購読者参加型メルマガ「適菜収のメールマガジン」も始動。https://foomii.com/00171

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[caption id="attachment_1058508" align="alignnone" width="525"] ◆成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
◆ 新型コロナが炙り出した「狂った学者と言論人」とは
高を括らず未知の事態に対して冷静な観察眼をもって対応する知性の在り処を問う。「本質を見抜く目」「真に学ぶ」とは何かを気鋭の評論家と作家が深く語り合った書。
はじめに デマゴーグに対する免疫力 中野剛志
第一章 人間は未知の事態にいかに対峙すべきか
第二章 成功体験のある人間ほど失敗するのはなぜか
第三章 新型コロナで正体がばれた似非知識人
第四章 思想と哲学の背後に流れる水脈
第五章 コロナ禍は「歴史を学ぶ」チャンスである
第六章 人間の陥りやすい罠
第七章 「保守」はいつから堕落したのか
第八章 人間はなぜ自発的に縛られようとするのか
第九章 世界の本質は「ものまね」である
おわりに なにかを予知するということ 適菜 収[/caption]

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