大相撲ほど、公平公正な審判を追求している競技は他にない
大相撲で解く日本社会②
大相撲ほど公平公正を追求している競技はない
実は、大相撲ほど、公平公正な審判を追求している競技は他にありません。そう言うと、嘘だろう、と思われる人がいるかもしれませんが、これは事実です。
取組中、土俵上には、相対する力士2人と行司がひとり、あがります。行司が審判の中心的存在だと思われがちですが、正確にはちょっと違います。
相撲協会が監修した『相撲大事典』(現代書館)には「行司は、土俵に上がった力士の、勝負の決定から土俵を下りるまでの進退の一切を主導する。ただし、異議申し立てがあって物言いがついた場合は、行司は勝負判定を審判委員に一任しなければならない」と書かれています。これはまったくその通りです。
行司は、たとえば野球のアンパイアのような絶対的な権限は持っていません。勝ち負け明らかな場合は問題ありませんが、微妙な裁定を必要とする場合について、昭和35年(1960)に日本相撲協会から出された『審判規則 行司』には、次のような条項が設けられています。
これらの条項に先立って第四条で、「行司は、勝負の判定にあたっては、いかなる場合においても、東西いずれかに軍配を上げなければならない」とされていますが、最終的な判断は、審判委員に委ねられるわけです。
審判委員は、幕内・十枚目の取組では、審判長1人を含む4名または5名で構成されます。幕下、三段目、序二段の取組では3名、それより下の取組では2名です。行司だけで裁定される取組はありません。
審判委員は、5人構成の場合、土俵下、東西に各1人、行司溜まり(向こう正面)に2人、正面に審判長が座って取組を見守ります。東寄りの審判委員は時計係を担当し、これはテレビ・ラジオ放送が欠かせない大相撲ならではのものでしょう。
審判委員については勝敗の決定について『審判規則』の中に、次のような条項があります。
協議という言葉がすべてに出てきます。つまり、大相撲においては、微妙な判定については、すべて話し合いを行うのです。
しかも、協議が必要か必要でないかについては、第五条にあるように、現役力士の実感を最大限に尊重します。協議もまた、取組を最も間近で見ていた行司を交えて行われます。
協議を重ねたうえでの最終判断は、第十四条に「審判長は、物言いの協議に際し、最終的に判定を採決するものとする」とあって、審判長が行います。審判長は、日本相撲協会の、時の審判部長または審判部副部長が務めます。
そして、勝敗の裁定について私がいちばんおもしろいと思うのは、以前は写真判定と呼ばれた「ビデオ判定」の導入と「取り直し」という仕組みです。
〈『大相撲で解く「和」と「武」の国・日本』より構成〉