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【コロナ禍で見えた知性の本質】どんな感染症にも向き合える心構え——考え続けること《岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義㊾最終回》

命を守る講義㊾「新型コロナウイルスの真実」

◼︎知性は優劣を付ける道具ではない

 

 さっさと先に行く浅い学び方をする人は、「こういうときは、こうすればいい」というノウハウは積み上がっていくけれど、深刻な問題を考えたり、答えがない問題を考えることがすごく苦手になる。だけど、入試は通る 。というか、入試はそうしたほうが通りやすい。

 そして、日本の知性の人生はその時点でアガって、ピタッと勉強をやめてしまいます。どれだけ多くの人たちが、大学入試以降勉強をやめてしまうか。神戸大学の医学生なんて全然英語が喋れませんよ。中学生レベルの英語も怪しい。大学入試が終わったところで英語の勉強をやめちゃうからです。

 いくら難しい大学に受かったところで、18歳なんてただのガキですからね。ぼくだって、18歳のときには何も 知らないただのアホでしたよ。イチローだって練習をやめたら野球が下手になるんだから、我々みたいな凡人はもっとダメになる。

 でも、そうやって速く速く知性を巻き上げて、ゴールに立ったら動かなくなってしまうのが日本の知性のあり方なんです。

 そうではなくて、大事なのは、時間をかけて待ってあげることです。納得のいくまで、理解できるまで待ってあげれば、そして本人も途中で考えることを諦めなければ、たいていの人はたいていのことを理解できるんです。

 そういう社会になったら、もっと知性に対する信頼が生まれるし、知性に対する尊敬も生まれる。「優劣を付ける道具」ではない知性を、もっとみんな尊重する。「みんなが考え続けることが大事なんだ」という社会に近 づいていくと思います。そんな社会、地球上のどこにもないですけど、そこに近づくチャンスはあると思います 。

 はっきり言って、処理スピードでいうなら、いまやスマホのほうが優れていますよ。人間様なんて全然勝てな い。それにほとんどのことはAIができてしまう。AI様に比べたら人間の頭のいい、悪いなんてどんぐりの背比べです。「計算ドリルが何秒でできる」みたいなのは、もはや新年会のかくし芸ぐらいにしかならない。
「頭がいい、悪い」というのは、「考え続けるか、続けないか」のことであって、タスクをこなす処理スピードの問題ではない。ぼくはそのことを言いたいんです。


「新型コロナウイルスの真実終わり)

 

 

 

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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