近鉄の新型特急「ひのとり」に乗る
2020年3月14日にデビューした近鉄(近畿日本鉄道)の新型特急でくつろぎのアップグレード旅
■コンセプトは「くつろぎのアップグレード」
車端部に鍵のかかるロッカーがあり、その反対側にはベンチスペースがある。気分転換や携帯電話による通話など多目的に利用できそうだ。4号車には多目的トイレがある。3号車にある喫煙室は、東海道新幹線を意識してのことだろうか?名阪間の鉄道サービスでは、何としても優位に立ちたいとの思惑が見て取れる。そのことは、ドリンクの自販機にも表れている。人件費などを節減するため、係員によるワゴンサービスの廃止はやむをえないけれど、だからといって2時間飲まず食わずで放置するのはイメージダウンだ。よって自販機とプレミアム車両にあるカフェスポットは妥協の産物といえるのではないだろうか?セルㇷサービスとはいえ、温かいコーヒーが飲め、スナックを口にすることができるのはありがたい。料金の支払いが現金のみで、ICカードが使えないのは意外だった。首都圏に比べて、ICカードの利用者は少ないのだろうか?
コーヒーを持って自席に戻る。歩いていて揺れをほとんど感じないのは、電動式フルアクティブサスペンションを装備しているためだ。また、新幹線と同じ線路幅1435㎜の標準軌を走るのも高速での安定走行に貢献している。
「ひのとり」はいつしか四日市を過ぎて、鈴鹿付近の平坦地を快走。近鉄名古屋を出て44分で津に停車した。ここで乗務員が交代する。三重の県庁所在地ということもあり、乗客が若干入れ替わる。
津を出て、少し南下した後、伊勢中川駅の手前で大きく右にカーブ。名古屋線に別れを告げ、中川短絡線経由で大阪線に乗り入れる。平坦な名古屋線と打って変わり、大阪線に入った途端、車窓には山が迫ってくる。
榊原温泉口駅を経て、東青山駅を通過すると、垣内(かいと)トンネルに続いて大手私鉄最長の新青山トンネル(5652m)で行く手に立ちはだかる布引山地を通り抜ける。伊賀神戸駅、名張駅といった比較的人家の目につく盆地を駆け抜けると再び山間部に差し掛かる。三重県から奈良県へと入り、渓谷や谷あいの集落を鉄橋で一跨ぎ、トンネルをいくつも抜ける。女人高野で知られる室生寺や「花の御寺」と称され牡丹で有名な長谷寺の最寄り駅を通過し、山を下りJR桜井線と交差する桜井駅あたりからは、いよいよ京阪神の都市近郊エリアへと入っていく。
次第次第に高層マンションやビルが増え、布施駅で近鉄奈良線と合流し、複々線で進んで鶴橋着。津駅を出て以来1時間15分ほどのノンストップの走行は終わった。さらに地下に潜って大阪上本町駅の地下ホームに停車。これら2駅で半数近くの乗客が下車した。
地下に入ると、車内の天井の色が青に変化して車内の雰囲気が変わる。中々の演出だ。かくして名古屋を出て2時間8分で終点大阪難波駅のホームにゆっくりと滑り込んで「ひのとり」の旅は終わった。あまりに快適すぎて、もっと乗っていたいと感じつつ、後ろ髪を引かれる思いでホームに降り立った。終点とは言え、線路はさらに続いている。実現は無理だろうが、神戸三宮駅へ、さらには姫路駅まで乗りとおしたら、どんなにか楽しい旅ができるだろうか。そんなことを妄想するほど充実しつつも、あっけない旅だった。
「くつろぎのアップグレード」というコンセプトに充分納得でき、満足した「ひのとり」の旅。機会があれば、何度でも乗りたいと思う。
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