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内局の自衛官軽視。日本の歪んだシビリアンコントロールを問う。

防衛省、自衛隊という組織の歪み②

事務次官は、警察と大蔵官僚の指定席

 官僚の頂点である事務次官の出身を見てみると、防衛庁発足以来、7代連続して内務・警察官僚が続いています。8代目に大蔵官僚が就任してからは、警察と大蔵官僚の指定席となりました。

 しかし、これではいつまで経っても腰掛部員たちの無責任な勤務と傲慢さは解消されません。

 防衛庁で独自の採用をし、育てていかなければならない、こう考えたのは当然のことだろうと思います。ようやく、昭和63(1988)年に初めて防衛庁プロパーの事務次官(17代)が登場しました。ところが、その後も警察、大蔵省出身者と防衛庁出身官僚が交代で次官となっています。防衛庁出身官僚の次官が続くようになったのは、つい最近、平成14(2002)年の25代以降からです(執筆中の現職は33代)。

 では、部員独自に採用することや、その結果防衛庁プロパーが事務次官になって、果たして内局の実態は変わったでしょうか。残念ながら、答えは否です。防衛庁採用の、生え抜き事務次官が何をしたかは、記憶に新しいところです(おねだり妻で有名な守屋事件)。

 現状は悪化しているだけです。

 キャリアといわれるⅠ種に限って言えば、採用されるのは毎年20名弱です。大企業や他省庁に比べて、きわめて少ない人数です。彼らは転勤もほとんどなく、少数のライバルとの出世競争で約40年を過ごすことになります。刺激の少ないこういう環境は、意識や人間関係に停滞や逼塞感を生じやすいものです。

 税務署や警察のキャリアたちは、1、2年で転勤します。経歴管理の事情もあるでしょうが、民間との癒着や、意識の停滞を嫌うからでもあるでしょう。

 海上の幹部自衛官の場合、海上勤務は1年、陸上勤務は2年程度で異動します。熟練を要する海曹は数年勤務が継続しますが、幹部の場合まず2年がいいところでしょう。一線の部隊勤務という比較的刺激のある職場でも、1年を過ぎると慣れで緊張感が低下するものです。また、人数の少ない海上や航空自衛官でも幹部は同期が百数十名は居ます。当然、部下や上司もそれだけの数が居ます。多数の人間がしょっちゅう異動するから、自分自身ばかりか、周囲の顔ぶれもしょっちゅう変わり、常に職場の雰囲気は新鮮です。転勤は30回以上、引越しは十数回というのも珍しくありません。

 一方、内局部員はせいぜい十数名の採用なので、同期はもちろん、先輩後輩の顔ぶれも知れています。異動しても部屋が変わるだけです。(スリッパ転勤などと言われます)ほぼ同じ建物や敷地で、見知った相手と何十年も過ごすのです。新鮮さはないでしょう。いざ、緊急の事態に対処することになっても、前例主義の官僚体質と相まって、臨機応変な対応を取ることはきわめて難しいと言わざるを得ません。

 第一線にいる自衛官が常に緊張感を持っていたとしても、彼らを仕切る内局がその状態です。自衛隊の即応性が阻害されるのではないかという懸念を、私はぬぐい去ることができません。

 

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中村 秀樹

なかむら ひでき

昭和25年生まれ、福岡県出身、防衛大学校18期。潜水艦艦長のほか、海上幕僚監部技術部、護衛艦隊運用幕僚、情報本部分析部、幹部学校教官、防衛研究所戦史部等勤務。平成17年退官。著書に『本当の潜水艦の戦い方』『本当の特殊潜航艇の戦い』『これが潜水艦だ』『尖閣諸島沖海戦』『第二次日露戦争』『日韓戦争』(潮書房光人社NF文庫)『潜水艦完全ファイル』(笠倉出版社)などがある。


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