「人間回復と持続可能性」コロナ危機で加速するまちづくりの転換【一個人として考える:後藤克己】
【『一個人』として考える Vol.9】
一個人として考える。自分の頭で考える。自分の生き方を考える。そして自分がともに生きる社会のあり方を考える。有名・無名を問わず地に足をつけた生活、仕事、歓びをもった方々にお話を聞く連載シリーズの9回目。
今回はNPO法人を運営し、群馬県議会議員でもある後藤克己さんにこれからのまちづくりの思いを綴っていただきました。
◼︎ 地方都市の「ファストシティ化」
20世紀の日本は、あらゆるものを「画一化」「効率化」することで、経済的な豊かさを実現してきました。それは、まちづくりや、人々の暮らしも例外ではありません。
視察好きな私は、時間があれば全国の地方都市を巡っていますが、どの都市もいったん郊外に出れば、幹線道路に全国展開のチェーン店舗が立ち並ぶという、「同じ風景」が広がります。ファストフードのように全国津々浦々同じ風景になっていく「ファストシティ化」とでも表現できるでしょうか。
そのような風景を見る度に、経済性の追求の代償として、私たちは人間としての個性や温もりを失った社会を作ってきたのだとつくづく感じます。
更には、行き過ぎたスプロール化や、地域の富が東京の大資本に吸い取られる構造が進むことにより、地方都市や山村地域の持続可能性を脅かしています。
このようなまちづくりの流れを、人間回復と持続可能性の視点から問い直すのが私の問題意識です。
◼︎地方再生のカギは「山村」と「公共交通」
県議として14年、一貫として追求してきたテーマが「山村」と「公共交通」の再生です。まさに地方の衰退を象徴するテーマであると同時に、問われて久しい「新しい豊かさ」を地方で実現するためのキーファクターであると考えています。
まず、山村地域には、自らNPO法人(「はるな緑の工房」)を立ち上げ、再生活動に携わっています。衰退を嘆く地域住民と語らう度に、「衰退こそ変革の好機」であると確信します。衰退という現実から危機感が生まれ、保守的な風土に変革の風穴を空けてくれます。
◼︎「山村」には可能性しか感じない
平野部の田舎出身の私には、山村地域は「宝の山」にしか見えません。「宝」を磨き方が分からないだけなのだろうと思います。私がまず目を付けた「宝」は自然エネルギーです。
FIT制度により、殆ど無価値だった山村の資源が「宝」に変わりました。私は全量買取が始まった2012年、小水力発電事業を興そうと、土建屋や建築屋の仲間逹と共に烏川水系の普通河川の流量と高低差を軒並み調査しました。気分は「大人の宝探し」です。
残念ながら烏川水系は水量が弱く、普通河川ではなかなか事業化には繋がっていませんが、そこから派生して耕作放棄地を活用したソーラー事業を始めました。耕作放棄地が「宝」に変わった瞬間です。こういった事業を元手に、空き家活用やグリーンツーリズムを進め、多くの若者が、スローライフという宝、観光資源という宝、自然エネルギーという宝、人それぞれの宝探しに来る。そんな山村への再生を目指しています。
◼︎「公共交通」どん底からの転換
次に、「公共交通」。公共交通を軸に、衰退した中心市街地や合併町村の旧商店街などを「歩く」「触れ合う」街に再生するまちづくりを群馬県で目指しています。
群馬県は政治的には保守王国。地方議会では、「道路が地域を発展させる」という道路神話を信じて疑わない先生方が圧倒的多数のなかで、人口集中地区(DID)の人口密度は著しく低く(全国45位)、マイカー前提の拡散した都市構造が形成されてきました。公共交通の輸送分担率は3%弱。ここからの政策の転換は非常に難しいものがありました。
私が目を付けたのは、同じマイカー王国でありながら、2012年にOECDからコンパクトシティ先進モデル都市(世界で5都市)に選出された富山市。私が訪問した2011年当時は、コンパクトシティなどと発言すれば、「周辺部を切り捨てるのか」というステレオタイプな反論が吹き出る時代でしたが、富山市は、中心部のみに都市機能を集約するのでなく、合併町村の商店街など既成市街地を再生し、それらを公共交通で繋ぐ「ぶどうの房」のような分散型コンパクトシティを目指していました。
私は「これなら行ける!」と目からウロコの思いで本会議に提案。翌年、群馬県が初めてコンパクトシティを打ち出した「ぐんま“まちづくり”ビジョン」の策定、更に公共交通の再生を加えた「群馬県交通まちづくり戦略(2018年)」の策定という、まちづくりの方向転換を促すことができました。
◼︎「仕事帰りに一杯」を文化に
しかし、計画の上では転換は図れたものの、施策はこれから。私はまず、輸送分担率0.3%に低迷するバス交通の「三重苦」(①乗り方が分からない、②どこを走っているのか分からない、③乗り降りが遅い)の克服が急務と考えました。長野県をモデルに、バス路線の乗り換え案内とバスロケーションシステム機能を持ったアプリの開発を進め、①②を克服。また、県内全路線をICカード化する予算を今年度確保し、③を克服し、再生のスタートラインに立てたところです。
群馬県では、仕事帰りに一杯飲む文化はほぼ無く、職場等の飲み会があっても、クルマ故に、ノンアルコールか代行で帰るかの選択に迫られます。私は、このこと一つ取ってもライフスタイルとして貧困だと思うし、中心街が衰退するのも当然だと思います。
インバウンドなどと言う前に、まず地元の人間が自分たちの街を楽しむことで、地域にお金が循環し、人間らしく持続可能な発展を目指すべきです。公共交通の再生がその重要なインフラとなると確信します。
◼︎まちづくりの転換の方向性
コロナ危機を契機に、これまでの東京=「進んでる」、地方都市・山村地域=「遅れてる」という価値軸からのパラダイムシフトが加速し、「東京的なもの」を志向してきたまちづくりの方向性が大きく二つの志向に転換していくと考えています。
一つは内発的志向です。これまで、道路等のインフラ整備により企業や観光客を誘致する外発的志向のまちづくりを全国で推し進めた結果、ファストシティ化が進み、地域の人材や富も流出するという皮肉な結果を生みました。一方で山村地域を中心に、自然エネルギーや着地型観光など、地域資源を「宝」に磨き上げることで、地域の個性があり、富が地域循環する内発的志向のまちづくりが広がりつつあります。
もう一つは、アナログ志向です。ITの浸透により、あらゆる分野でデジタル化が進み、生活の利便性が高まる一方で、人との触れ合いに飢えている人々が増えています。衰退する商店街を「モノを売る場」から「触れ合う場」として再生に成功する事例が増え、公共交通により「歩く」まちづくりが再評価されているのも、人間らしいアナログ志向が強まっていることの表れであると思っています。
*本コーナーでは自薦・他薦を問わず「一個人として私はこう考える!」だからみんなに「語りかけたい!」と希望する読者の方々を募集いたします。先例なき社会問題先進国と言われる日本のいまを「自分」の言葉で語り、向き合ってみる居場所を『一個人』編集部は「心の広場」として場をつくってまいります。