【豚熱(ぶたねつ)って何?】家畜伝染病について勉強しよう。
【第32回】都内の美人営業マンが会社を辞めて茨城の奥地で狩女子になった件
■冷凍で4年以上も生きられる豚熱ウイルス
しかし、人に感染しないからといって油断は禁物です。豚熱に感染してしまった豚は急性の場合、数日から2週間で、慢性の場合でも数か月で死亡し、高い感染力を持っています。涙や鼻汁や排せつ物の飛沫、付着物から簡単に感染してしまうのに対して、根本的な治療法は無く、一度豚熱が発生してしまったら、ウイルスを蔓延させないための予防対策は殺処分しかありません。農林水産省の消費・安全局の報告によれば、2018年から2020年3月までに日本の養豚農場において岐阜県、愛知県、三重県、福井県、埼玉県、長野県、山梨県及び沖縄県の8県で計58事例発生し、これまでに約16.6万頭(!?)を殺処分していたことが分かりました。その猛威は瞬く間に野生のイノシシにも広まり、2018年9月13日以降、岐阜県、愛知県、三重県、福井県、長野県、富山県、石川県、滋賀県、埼玉県、群馬県、静岡県、山梨県、新潟県、京都府、神奈川県、茨城県、東京都で感染確認、そしてつい先日の2020年9月9日に18都道府県目の福島県の会津若松市でも感染が確認、東北で初めての感染確認でした。
その被害額は計り知れません。そして、殺処分をするのはもちろん我われ人間です。作業中にトイレや食事に行く度に念入りな消毒作業を行わないといけないため、作業は飲まず食わず、長時間にわたって行われたそうです。殺処分は電気ショックや注射で行いますが、感染家畜である豚も命の瀬戸際、懸命に抵抗する個体も居たことでしょう。押さえつけるのも大変です。また、電気ショックの焦げるにおい、その断末魔、命あるものを、大量に奪わなければいけない悲しさや虚しさは心を蝕み、作業に当たった人の中ではPTSDを発症してしまう人もいたのだとか……。日々ぬくぬくと快適な場所で、いつでも美味しい豚カツや豚しゃぶを食べている私に、その惨状は想像することもできません……。こういった記事や記録を目にすると、改めて、私の平穏な日常は多数の動物の命や、人々の努力の上に成り立つんだなぁと実感します。これは“あたりまえ”の事ではないのです。
ちなみに、このCSF豚熱ウイルスはとても強く、燻製や塩漬けにしても死滅することはありません。チルド状態では85日間、冷凍状態でも4年以上生き残る可能性もあり、加熱処理でもこのウイルスを死滅させるためには肉の中心温度70℃で30分以上あるいは 80℃では3分以上の加熱が必要とされています。連載第29回【なぜジビエを生で食べたらダメなの? その危険に迫る!】でもご紹介している通り、E型肝炎や「O-157」などの腸管出血性大腸菌などの微生物を死滅させるための有効温度は『中心部まで、75℃で1分間以上加熱』なのですが、そう考えると熱にも非常に強いウイルスであることが分かりますね。