「私は母親とは違う」300万円もの借金を抱えた風俗嬢を絡めた鎖《日本の最貧困地帯 沖縄のリアル①》【神里純平】
日本の最貧困地帯 沖縄のリアル①
日本の最貧困地区と言われる沖縄。そのリアルを個々の事例に踏み込みながら活写する。前田なつきさんの場合(38歳・那覇市・風俗嬢)
「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」
(トルストイ『アンナカレーニナ』より)
ここで紹介する前田さんは沖縄本島那覇市の繁華街、松山の近くにある築25年の1LDKアパートで一人暮らしをする38歳の女性である。普通のOLとは違い水商売女性独特の化粧のため同年代より若く見える。しかし、隠しきれない深いしわが彼女の悲惨な人生を象徴しているようにも見える。
前田さんを知ったのは、私がまだ20代前半の時に松山で客引きをしている時のことだ。友人から紹介され、以来10数年来の友人である。
■アルコール依存症の父は「実の父」ではなかった
前田さんは、5人姉妹の三女である。父親のひろきさんはアルコール依存症で仕事をすることはほとんどなく、日がな釣りをし、釣った魚を食べながら泡盛を潰れるまで飲むのが常であった。
一家の大黒柱がそんな状況だったので、母親は昼も、そして夜も働くことを余儀なくされていた。しかし、父親は嫉妬深いこともあり、母親が夜の仕事から帰ってくるころには泥酔状態で頻繁に暴力をふるっていたようだ。
そんな夫に愛想を尽かした母親は、当時自衛隊で働いていたお客さん(Aさん)と恋に落ちた。
そんな中でAさんとの間に身ごもった子供が、なつきさんである。母親はAさんと駆け落ちまで計画をしていたが、どうしようもない父親のことを捨てることができずにひろきさんの元に戻った。
結局母親はお腹のなつきさんの存在をひろきさんには、「不倫でできた子供ではない」と信じこませて出産した。
その後、母親はさらにひろきさんとの間に二人の子宝に恵まれた。しかし、結局はひろきさんの暴力に耐えかねて県外に出稼ぎにいった。なつきさんたち5人は近所の団地に住んでいた祖母に預けられることになった。
しかし、母親はそこでもひろきさんには内緒で男を作った。仕送りをすることはなく生活の糧は祖母の生活保護のお金だけであった。欲しい物は何一つ買うことができなかった。
なつきさんが、中学生の頃になると周りの色々な人から「他の兄弟と似ていない」とからかわれるようになった。中には悪意を持って陰口を叩くものもいた。ある日、耐えかねたなつきさんは、祖母を問い詰めて、“真実”を知ることになった。
その時になつきさんが母親に抱いた感情は、殺意だ。
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