白人至上主義をめぐる衝突。そもそもリー将軍は人種差別の象徴なのか?
トランプによる「リー将軍」でゆがめられたもの
リー将軍と南北戦争
リー将軍は降伏後すぐに仮釈放され、その年のうちにヴァージニア州レキシントンにあるワシントン大学の総長として迎えられた。彼の死後、ワシントン大学はその偉業を称えて、ワシントン&リー大学と改名されている。ヴァージニアはリー将軍の故郷とはいえ、戦後すぐにこのような待遇を受けたことから、リー将軍は南部だけでなく北部の人たちからも尊敬を集めていたことがうかがえる。
南軍の他の将軍も尊敬されていて、リー将軍像も含めて全米で約700もの南部の将軍像が飾られているそうである。だが、今回の騒動を受けてそれらの像が相次いで撤去されることになったと伝えられている。(※1)
国家として高い理想を掲げるアメリカは、奴隷制や人種差別、先住民虐殺など、負の側面を多く抱えた国家でもある。理想の光が強く輝けば輝くほど、影もまた濃くなるのだろう。故に、白人至上主義というアメリカの影に対して、激しく反対する人々も多い。
アメリカ人が抱く政治的な機微は、外から見ているだけではわからない面もあるのかもしれない。「南部連合旗」が南部の精神と文化を象徴する旗であると同時に奴隷制や人種差別を象徴していると受け取られているように、南部連合の英雄であるリー将軍を人種差別の象徴として受け取る人も少なくないのだろう。 だが、世論調査では、南軍の将軍像の撤去について約6割の人が「そのまま残すべき」と答えたと報道されている。(※2)
アメリカ人の多くも、リー将軍個人については必ずしも人種差別の象徴として捉えているわけではないのだろう。
白人至上主義者やその反対者、トランプ大統領がリー将軍像をどのような象徴として捉えていようとも、奴隷制や南部に対するリー将軍の葛藤を忘れるわけにはいかないのではないだろうか。そういった観点から言えば、銅像が思い起こさせる負の歴史も含めて、様々な側面を見つめることも大切なのではないだろうか。
(※2)http://www.afpbb.com/articles/-/3139624
<参考文献>
・『アメリカ南部 大国の内なる異郷』ジェームズ・M・バーダマン、森本豊富訳、