【非正規雇用の教員問題】教員の雇用形態について考える
第46回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-
■教育現場も他人事ではない雇用形態の変化
「雇用ポートフォリオ」と呼ばれるものがある。
1995年に日本経営者団体連盟(日経連)が発表したレポート『新時代の「日本的経営」-挑戦すべき方向とその具体策』に盛り込まれた案だ。
日本的経営の特徴のひとつであった「終身雇用」を壊すのが「雇用ポートフォリオ」であり、簡単に言ってしまえば「雇用において正規雇用は3割で、残りの7割は非正規雇用でいい」という考えだ。
非正規雇用の比率を増やすことで、状況にあわせた雇用調整ができるため、大きなコスト削減が可能となる。それに多くの経営者が気づいてはいたものの、終身雇用の慣例をあからさまに壊すことにはためらいがあった。
そこに登場したのが「雇用ポートフォリオ」である。7割を非正規雇用にするという施策を取り入れる「後ろ盾」ができたのだ。そこから、日本企業でも非正規雇用がグンと増えていった。
それは、教育にも大きな影響を与えている。ある教育関連の講演会で経済産業省の官僚が「3割の正規雇用に入るように頑張らないと、いつ解雇されるかわからない7割側になってしまう」という意味のことを話しているのを聴いたことがある。だから成績を上げる教育を行え、ということらしかった。「いい学校に入って、いい企業に就職しなさい」が「3割側に入りなさい」になったわけだ。
非正規雇用の不利さが喧伝され、3割側に入るための競争が煽られている。入れなかった場合は自己責任を問う風潮も強くなってきている気もする。
非正規雇用は、いまや教員の世界でも大きな問題になってきているのである。
■「少人数学級」の実現が非正規化を加速させる
新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)で長期休校から再開に向けての第2次補正予算案で、小・中学校への加配教員3100人と学習指導員6万1200人分の予算が計上された。しかし、このほとんどは非正規雇用である。
政府の教育再生実行会議ワーキンググループが「令和のスタンダード」と位置づけているのが少人数学級で、萩生田光一文科相をはじめとする文科省、そして菅義偉首相も積極的姿勢をみせている。ただし、その実現には教員増が不可欠なはずなのだが、正規雇用を増やすことには消極的で、文科省は少子化で今後10年間で発生すると見積もっている約5万人の余剰教員を充てる腹づもりだ。
8月4日の記者会見で萩生田文科相は「やるとなれば、今までとはスピード感を変えて、しっかり前に進みたい」と語っていたのだが、「10年かけて」になってきているのだ。正規雇用で教員を増やす自信も覚悟もないからだろう。そして、少人数学級の体裁だけ整えるために非正規雇用を利用していくのだろう。
教育も、非正規雇用の教員に頼りつつあるのだ。企業が非正規雇用を増やすことでコスト削減しようとしているように、教育も非正規雇用の教員を増やすことでコストを抑えようとしている。教育でも「3割正規・7割非正規」という「雇用ポートフォリオ」が現実のものになる可能性すらある。
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